田中宇さんのの国際ニュース解説から、すてきなメッセージのおすそわけです。 

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08年11月に米国ワシントンDCでG20経済サミットが開かれ、今年4月のロンドンサミットを経て、9月にはピッツバーグのサミットとなり、G20がG8に取って代わることが宣言された。 


70年代のドルと米経済の危機は、G7を作って敗戦国だった日独を主要国として再認知する代わりにドル支援させたことで乗り越えた。 
今回G20に権限を与えることも、かつての日独の役目を新興諸国にやらせようとしているかのようにも見える。しかし、70年代の日独と今の新興諸国では決定的に異なっている点がある。 
日独は敗戦国で、戦後は米英に占領され傀儡化された。日独は国際社会での権限を与えても、米英に対抗する勢力とならず、米英体制の傘下に居続け、ドルを買い支えてくれた。だが日独と対照的に、中国とロシアという新興諸国の主導国は第二次大戦の戦勝国であり、国連安保理では米英仏と対等で拒否権を持っている。 

G7は最初から基軸通貨としてのドルの延命を目標としていた。 
対照的にG20の周辺では、中国が発表したIMFのSDR(特別引き出し権)を活用した新しい基軸通貨体制の構想などドルに代わる基軸通貨体制が語られている。中国やロシア、ブラジル、そして仏独伊などまで、首脳陣が基軸通貨としてのドルの役目は終わる。代わりの通貨体制が必要だと言っている。 

G7はドルを延命させたが、G20はドルを終焉させる機関のようだ。 


今回、G20がG8に取って代わることが発表されるとほぼ同時に、世界銀行のゼーリック総裁が現状のドル本位制以外の選択肢が登場しているので、基軸通貨としてのドルの地位は危うくなっている。米国は、ドルの地位が盤石だと思わない方がいいと警告した。 

ゼーリックは、米連銀は金融界の管理者として失敗したと批判し、米連銀の権限を強化することで金融危機対策にしようとしているオバマ政権の構想は、間違いだとも指摘している。 
ゼーリックの意見を総合すると、連銀が金融政策を担当している限り、米国の金融危機は改善せず、連銀が刷っているドルは世界から愛想を尽かされ、ドル以外の基軸通貨制に移行しかねない、といっている。 

米国はすでに、旺盛に商品を輸入する世界経済の牽引役であり続けることを半ば放棄している。 
オバマ大統領の経済顧問であるローレンス・サマーズは、為替をドル安に誘導し、米国の輸出力を回復することで、米国経済の中心を消費から生産に戻したいと表明している。
日本の民主党政権も、藤井財務相が訪米してガイトナー財務長官に「円安ドル高政策はもうやらない」と伝え、市場を円高ドル安に誘導し始めた。これも同様の流れである。 


今回のG20の3大テーマは 
1)中国をはじめとする新興市場諸国の国民に消費させ、米国人に貯蓄させることで、国際貿易収支を再均衡させる 
2)新興諸国に消費させる見返りとして、IMFなど国際経済機関における新興諸国の発言権(投票権)を拡大し、米国の権利を削る 
3)金融界における役員報酬の上限設定などの規制強化、である。  
まさに、中国やBRICに世界の経済面の責任と権限(覇権)を与える話になっている。 



国際社会では最近、すべての国際金融取引に0・005%の課税を行う「トービン税」の構想が出てきている。税収は途上国の貧困対策などに使うため、国連機関におさめられる。 
これは、これまで独自の財源を持たず、資金力のある先進国からもらう金だけが財源だったがゆえに、先進国の言うことを聞かねばならなかった国連を、先進国の言いなりから解放するための構想である。 


基軸通貨制の転換については、G20の正式な議論のテーマにはなっていない。しかし、昨秋に国際金融危機に関する1回目のG20サミットが開かれる前後から、各国高官の間から、ドル崩壊の予測や、ドル以外の基軸通貨体制に関する考察が出るようになった。 

昨秋のG20は第2ブレトンウッズと比喩的に呼ばれたが、ブレトンウッズとは1944年にドル基軸の国際通貨体制(米国の経済覇権体制)を決めた国際会議である。 
G20が国際通貨体制の大転換について議論する会議であることが、この呼び名からも感じられる。ドルが今後もずっと健全であるなら、国際通貨体制の大転換について話し合う必要などない。話し合い自体がドルの健全性を損なう。国際通貨体制について話すのは、ドルに未来がないことが前提である。 

しかし、現実には、ドルは崩壊していない。米政府は財政赤字を急増しており、ドルには潜在的な崩壊感があるが、実際の為替相場は、今日までのところ、それほどドル安になっていない。通貨が頼りにならなくなったときに高騰する金相場も、上昇は限定的だ。 

この矛盾についての、マスコミなど世の中の大方の反応は無視する、問題にしないというものだ。しかし、G20周辺でのドルの基軸制は危ういという指摘は、昨秋以来ずっと続いている。無視してよい矮小な話ではない。 

むしろ、昨秋のリーマン倒産以後、米国の金融システムはすでに潜在的に不可逆崩壊しており、米国の大手銀行の多くは、連銀が公然、非公然の救済を続けない限り、債務超過が顕在化して潰れてしまう幽霊銀行であり、連銀による救済で崩壊が先送りされているだけである。 
連銀による金融界の救済は、連銀自身を弱め、連銀の信用で発行されているドルを弱めている。最後にはドルが信用されなくなる。 

米国は、失業増によって国民の12%(3500万人)が生活保護を受ける状況で、経済の6割以上を占める消費は悪化傾向が今後も続きそうだ。 


年初来、欧州などには9月末金融危機再燃説があったが、それは現実になっていない。9月に入って金相場が1オンス1000ドルを超えて一時上昇し、中国など各国政府による金の買い漁りの話などもあり、何か始まりそうな気配があったが、その後金相場は再び1000ドル以下に落ちた(米英当局が、金先物を使った下落戦略をとっているからではないか)。 

しかし、米連銀がドル発行によって金融システムを延命させている構造自体は続いており、危険が去ったわけではない。金相場も、また1000ドルを突破するかもしれない。 


(一部、加筆編集してお届けしました。)