100512watanabe

【メッセージ要旨】 

日本経済を再び成長軌道に乗せるには30兆円に及ぶデフレギャップを財政・金融の一体政策で解消する必要がある。 
そのうえで人口30億人のアジア内需を取り込むため、政府は各種協定を結び国境の壁を低くすべきだ。その際、官僚統制・中央集権を脱し民間企業や地方自治体が主役になるようにするべきだ。 
米国の金融危機の引き金だった住宅価格の続落や、人民元の切り上げを迫られている中国のバブル崩壊の兆しの中で、日本景気の二番底懸念は根強く残る。民主党政権は多くを配って消費税増税で回収するという点で自民党と軌を一にする。官僚主導から政治主導に転換することに失敗し、「政権交代」だけが唯一の成果である。自民党から分かれた新党が相次いでいるが、「国会内の新党」は一時的に終わるのではないか。 
国会を飛び出し、地方中心の草の根国民運動を進めるみんなの党が第3極として政界再編の核になっていきたい。  
------------------------------------------------- 

 みんなの党は2009年8月に発足したが、今年4月は竹の子新党が相次いだ。私は自民党を離党し、みんなの党を立ち上げてから8カ月間全国各地を回り、草の根国民運動を進めた。最初に行った三重県松坂市では、自民党と民主党が推し3期目を目指す現職市長に、民主党の県会議員が離党し保守系市民に支えられて挑んだ。そこに私が参戦し、絶対勝てないと言われた戦いに現職の1.5倍の票を集め大差で当選した。これは何かが動いていると確信した。 
国会の中で5人集まって新党をつくることは一見華々しくみえる。だが、これは一時的なものに終わると思った。国民が政治に辟易しているからだ。当時の麻生太郎首相は官僚を使いこなすと言いながら、使われてしまっていることを国民は知っている。国会を飛び出し、国民の懐に飛び込んでいくことが重要だと分かった。「国会内で新党」は直接的なアプローチだが、私は迂遠なものの国会の外という間接アプローチを採った。タウンミーティングなどを行えば、中央のメディアは取り上げなくとも地方メディアは取り上げてくれる。こうしたことを8カ月間続け、みんなの党を立ち上げた時に、草の根運動を支えてくれた人たちが衆院選挙の候補者になってくれた。この夏の参院選挙に向けてこの国民運動が続いている。 


◇裏方部隊不在の鳩山政権 
 衆院選挙前の昨年6月、民主党による政権交代が確実視される中で、私と江田憲司衆院議員(現みんなの党幹事長)は鳩山由紀夫現首相と菅直人現副首相兼財務相と会った。「官邸に入る時は霞が関(官僚)の細部戦略が分かる裏方部隊を連れて入ってほしい」とレクチャーした。政治家である大臣が大方針を指示すると、官僚はその細部戦略を詰める。その際、官僚のレトリック(巧言)で大方針と違う箇所が随分ある。この細部の落とし穴を発見するのが裏方部隊だ。大方針に基づいて駒を着実に進める。私が金融担当相の時は補佐官チーム(裏方部隊)が作ってきたメモを見ながら、あたかも自ら細部の落とし穴をみつけたようにして官僚に指示すると、その通りに動かざるを得なくなる。そのことが政治主導で大事であると口を酸っぱくして言ったが、結局彼らは聞き入れなかった。 
鳩山内閣の発足後、「官僚を使いこなせ」とどこかで聞いた同じセリフを言う。「官僚を使いこなす前に官僚を選べ」ができていないのだ。民主党は昨年、政権移行チームを検討したが、実現できなかった。このチームは国家戦略スタッフであり、裏方部隊になれたはずだ。党内の権力構造に起因し、首相官邸の主がダミーで、もっと力の強い人が党の方にいたということだ。 

 官僚を選べず、自民党幕藩体制を支えた官僚がそのまま民主党政権を支えているので、改革なんてできるわけがない。民主党政権になって各省庁の政務3役が注目されているが、本来裏方部隊がすることを政務3役がしている。閣議も民主党政権になってもあまり変わっていない。政令などに花押(署名)するお習字大会になっている。 
本気で政治主導にするならば、閣議後の閣僚懇談会で事業仕分けをすれば良いのだが、そんな話も聞かない。政治主導とは内閣主導であるのだが、全然できていない。100人以上の政治家を内閣に送ることや事務次官など官僚の幹部人事を握ることもできていない。官僚の抵抗マニュアルがある。リーク、悪口、サボタージュの3大手法だが、民主党政権にはこれを打ち破るノウハウがない。それは官僚のレトリックを熟知している裏方部隊がいないからだ。この政権はスタートダッシュができずに大失敗し、政権交代だけで終わるだろう。一方の自民党は崩壊過程にある。与党であることに存在意義があったが、野党では崩壊するしかない。結局、次の選挙では国民が2大政党制にはっきりと駄目だしすることになるのではないか。 


◇第3極として政界再編の核に 
 そのためには自民党でもなく民主党でもない勢力が、いかに沢山の候補を擁立するかにかかっている。みんなの党は公認候補だけで21人いる。アジェンダ(政策課題)に賛成し、47都道府県をカバーする「47士作戦」をとっている。英国でも連立政権が誕生する。保守党と連立を組む第3極の自由民主党が登場したのが1970年代。英国の場合、日本と違って完全な小選挙区なので時間がかかったが、2大政党制に国民の駄目だしが出たわけだ。日本には比例代表並立制があり、比較的第3極が出やすい環境にあるが、みんなの党はアジェンダを明快に出すことを考えている。これが選挙のカギを握る。 

 自民党、民主党とも国民にお金をばらまき、いずれ消費税増税で回収するという点で軌を一にした政党だ。自民党は官僚依存だが、民主党は官僚に加え組合依存なので二重のしがらみがある。こういう政権の下では、いずれギリシャ化は避けられない。仮に消費税増税が実現しても、増税によって財政再建ができた国はほとんどない。赤字企業がまず製品値上げで凌いだら消費者から駄目だしされる。逆に財政がひっ迫している時は改革の絶好のチャンスだ。赤字企業なら、リストラのために遊休資産を圧縮、売却する。ヘソクリがあれば借金する前に使う。国家財政のバランスシートをみると、年金資産まで入れるとグロスの借金は1000兆円、資産規模は700兆円でネットの赤字が300兆円、国内総生産(GDP)比で6割弱になる。この700兆円の資産のうち、有形固定資産がダム、道路、土地、国有林などで180兆円、残りの520兆円は金融資産だ。貸付金 ・出資金250兆円、現金預金・有価証券等150兆円、年金預かり金の金融寄託金120兆円。これらのお金はすべて、天下りネットワークに流れている。 
膨大なグロスの借金と同時に膨大な金融資産を抱えているのが日本の特徴だ。金融資産の中には不良債権があることも考えられる一方、埋蔵金がまだまだ隠されていることもある。民主党政権は郵政民営化を凍結する法案を出したが、これを従来のように100%株を売却すると埋蔵金は10兆円ぐらい出る可能性がある。まだまだ埋蔵金の発掘は可能だ。いきなり製品値上げ(消費税増税)する前にやるべきことがある。 


◇国家のリストラが必要 
 民間だったら、次の策は経費の圧縮、給与の圧縮だ。国家公務員の場合、非常に精緻にできた給与法がある。上がったら、絶対に下がらない仕組みだ。10年以上デフレから脱却できないのは日本ぐらいだ。自民党政権が官僚任せの政治をしてきた。その政治の企画立案をしてきた官僚は役所の縄張りと身分制人事に支えられ、大胆な政策転換をできないでいる。デフレの時は民間企業なら解雇や給与カットがある一方で、給与は下がらない、解雇されない、デフレにした責任を問われないのが官僚の世界だ。デフレになると失業対策、景気対策、格差是正が必要と霞が関の出番は増える。官僚任せにしていたらデフレから脱却できるはずはない。これが日本衰退の根本原因である。だからこそ政治主導が必要なのだ。 

 国民は政治家に駄目だしできるが、官僚にはできない。政治が内閣主導で官僚をコントロールするのが当たり前ではないかと思う。国家のリストラを徹底して進めていく。同時に成長が止まってしまった日本を再び成長軌道に戻すことが必要だ。それには、まずデフレから脱却することだ。デフレギャップがいまだ30兆円ある。国債の追加発行はできないので、財政、金融政策を一体運用すべきだ。景気の二番底を心配して心配しすぎることはない。 
カギを握るのはやはり米国経済だ。住宅価格は下げ止まったといわれるが、返済遅延などで差し押さえされていない物件がこれから中古市場に出てくると価格は下がる。厳しい金融規制が行われていることから、相当深刻な事態になる恐れがあるとみている。頼みの綱の中国も、ピーク時に比べ株価が2割程度下がっている。上海万博も入場者数が予定の半分ぐらいになるのではと言われている。米中戦略対話で取り上げられている人民元の切り上げが現実味を帯びてくる。為替に的を絞った金融政策をしてきた中国経済がバブル崩壊する方向に進む可能性は捨てきれない。日本は二番底懸念を想定して戦略の立案をしておく必要がある。 

  みんなの党は国会には出していないが、デフレ脱却法案を作ってある。端的に言うと日銀法の改正だ。政府と日銀がアコードを結び、物価安定目標を2%にする。政府が信用緩和政策、例えば中小企業のローン債権20兆円の買い取り要請を日銀にする。引き取った場合、ロス分は政府が補填する。ロス分が3%なら6000億円、6%なら1兆2000億円。すると金融機関はローン債権がキャッシュに変わり、新たな貸し出しあるいは投資が可能になる。その際、みんなの党が提案しているのはエクイティ(株式)金融 (例えば地銀が中小企業の株式を保有するなど)を解禁したらどうか、ということである。民主党政権が出したモラトリアム法案より、はるかに透明なマクロ、ミクロを包括した法案になる。 

 エクイティ金融を解禁すれば、証券化して売却すれば地域型投資信託になる。30兆円に及ぶデフレギャップを解消するには、こうした財政、金融の一体政策という国家戦略が必要だ。そのうえで中長期の成長を達成するには、これも官僚統制、中央集権を止めさせることが重要だ。自民党政権が描いた成長戦略がうまくいかなかったのは、霞が関 が「この業種がこれからの産業」と勝手に決めて補助金を出すような政策を続け、一方で、さまざまな規制で新たな産業の芽を摘んできたからだ。農業をみてもコメを1300万トン能力がありながら850万トンしか作らせない。カリフォルニア米より3割も生産性が落ちている。民主党政権も自民党政権と同じように官僚統制、中央集権で、農家の戸別所得補償も全国一律の金太郎飴方式だ。 
成長するためには民間がチャレンジし、現場がイノベーションするしかない。だから個別の産業政策を行うなら地域に任せる。政府がすることは「開国」することだ。アジア 30億人の内需を取り込み、日本の成長の源とするには、経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)など結び、国境の壁を低くすることが必要だろう。宅急便、コンビニなど日本の内需産業はアジアにどんどん進出している。国家の役回りは外交、安全保障、通商交渉、マクロ経済政策など限定的なものになっていくだろう。日本が国家戦略をきちんと持って取り組んでいくことが重要だ。 


(2010年5月12日 日本経済研究センター昼食会にて) 

-わたなべ よしみ- 1952年栃木県生まれ。早稲田大学政経学部、中央大学法学部卒。平成8年初当選。2006年行政改革・規制改革担当相。07年8月、金融・行政改革担当相。09年1月、自民党離党。脱官僚・地域主権・生活重視の国民運動体「日本の夜明け」(1月)、新党「みんなの党」(8月)を立ち上げる。