最近、中国の台頭がいたるところで話題になってる。中国経済は日本を抜き世界第2位になり、その差は開こうとしている。 

1990年、中国の輸出相手先として断トツの一位は日本、一方、日本にとって中国はマイナーな輸出先の一つに過ぎなかった。 
ところが、2009年には中国にとって日本は10%以下の輸出相手先であり、日本にとって中国は米国を超え最も重要な輸出相手先になっている。 
つまり経済面で見ると、この20年、特に2000年以降の10年間、日本と中国の立場は劇的に変化した。 


1989年は色々な事が起こった。政界を揺るがしたリクルート事件の結果、6月3日に竹下内閣は退陣、翌4日には、中国で失脚したまま軟禁状態に置かれていた胡耀鵬元総書記の死を契機に発生した天安門事件が悲惨な流血の事態を迎えた。 
12月にはベルリンの壁が崩壊、そして日本のバブルは頂点に到達した。まさに歴史的な転換点といえる年であった。 

そして1990年、激動の余燼がくすぶる中、天安門事件の直後で世界から孤立する中国にとって、あらゆる意味で日本はクリティカルな国であった。 
経済的にも最大の輸出相手国であり、世界との関係に於いて孤立を避けるため、何としても関心を買わなくてはならない相手が日本であった。一方、日本にとって中国は過去の経緯から特別な関係にあり、かつ将来的に重要な国として重視する存在であった。 

世界から孤立する中国は、危機感を強めていた。香港やマカオからどんどん人材と資金が流出し、日本を除く世界の国々からは留学生すら受け入れられず、日中友好スローガンのもとに公式非公式を問わず様々なレベルで中国から日本へのアプローチが繰り返された。 

そして、中国との関係を重んじる日本は1990年の末に第3次円借款8100億円を再開した。次に、中国の硬軟織り交ぜた懇願に応じる形で1992年には天皇訪中を実現した。 
その結果、西側諸国は中国との交流を徐々に再開した。 

一方、中国は西欧諸国との対立を尻目に、長年の懸案であったロシアとの国境画定に着手した。 
まず1991年、ソビエト連邦が崩壊する直前というタイミングで、極東の国境線を中国に有利な条件で画定した。 
1994年には中央アジア部分を画定、その際には並行して独立後の混乱が続く中央アジアの旧ソ連諸国とも国境を画定。 
そして2004年にはプーチン大統領と胡錦濤国家主席の政治決断で、全てロシアが実効支配していた3つの島を、両国で2つに割る形での決着という、中国にとっては非常に好ましい条件で合意した。 

新たに大国としての道を歩み始めたロシアにとって、中国とのパートナーシップを確立することは極めて重要であり、そこを突いた中国の見事の交渉の積み重ねが成果を生んだ。 


ロックフェラーセンター、コロンビアピクチャーズなど多くの米国企業の買収はことごとく失敗し、巨大な損失を出して撤収をした。残念ながら日本が国力のピークを迎えた際、成果として誇るべきものはODAをひたすら提供したことであった。 
ODA大国ということで、日本はどこに行っても歓迎され、国際機関におけるポストも増え、世界的な評価も高まったが、懸案であった領土問題は何ら実質的な進展がなかった。 

日本にとって、中国との間で尖閣諸島やガス田などの問題に関して、日本にとって有利な取り決めをする最大のチャンスは1992年の天皇訪中の前であった。 
そして、ロシアとの間の北方領土の問題に関する取り決めについては、1991年のゴルバチョフ大統領来日から1998年のエリツィン大統領来日後迄の期間であった。 

天皇訪中を皮切りに西欧諸国との交流再開以降、中国が経済成長しGDPで日本を抜き去ったことは、中国が有しているポテンシャルの高さに加え、中国指導部の統治能力の高さを証明した。 
そして今、中国はいよいよ鄧小平の遺言「能ある鷹は爪を隠す」を破り、その爪を剥き出して来た。 

これからの10年を考えると、彼我の経済的な力の差は、大きくなっていく。そして軍事的な力の開きは、更に大きくなっていく事を考えると・・・、 

◇北方領土 
ロシアとの間で2島返還で国境線画定し、平和条約締結。他の2島に対して日本は、漁業権や地下資源などの特殊経済的権益、およびビザ無き渡航権を確保。合わせて、千島列島、樺太、東シベリアに対して、日本に特殊な経済的権益を認めた上で、各種共同経済プロジェクトに着手。ここには西欧諸国の参加も促す。 

◇竹島 
韓国の実行支配権を認めたまま、経済的権益に関しては共有する。 

◇尖閣諸島 
日本固有の領土として支配を続けると共に、周辺へ自衛隊の配備を進める。 

相対的な経済力の低下に伴い地位が低下する日本は、ロシアと韓国に対して北と西の国境問題を経済的・友好的に解決し、あくまで勃興する中国に対しては筋を通し続けることが重要である。 


(エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社 大上 二三雄氏提言より)