『ハリーポッター』の原作者JKローリングが、ハーバード大学の卒業式で行ったスピーチの一部を転載します。 

私の結婚生活は超スピードで破綻したし、私は無職で、シングルマザーで、ホームレスを除けば現代のイギリスで最も貧しい貧困者の生活に陥ってしまったのです。私の両親や私自身が長年恐れていたことが現実のものとなったわけです。あらゆる基準で考えて見て、私は自分の知っている友人、知人の中で最もはげしく失敗した例となってしまいました。 

私は失敗が愉しいと皆さんに言おうとしているのではありません。当時の私は自分の人生の中でとても暗い期間を過ごしていました。メディアが後日、シンデレラ・ストーリーのように書き立てる成功物語が自分にやってくるということは当然知らなかったし、このくらいトンネルがどれだけ続くのか見当もつきませんでした。そして長い間、トンネルの先にあるのは単に希望だけで、現実にはならなかったのです。 

それではなぜ私が失敗の重要さを皆さんに説くかといえば、それは失敗は自分にとって大事じゃない物事の一切を取り去る効果があるからです。これだけ落ちぶれるともう体裁を取り繕うことはムダだし、自分にとって大事なコトだけに自分の持てる全てのエネルギーを注ぎ込む以外に無いと悟ったのです。若し私が少々でも成功していれば、自分が「わたしにはこれしかない」と思う分野で死力を尽して頑張ることもしなかったかも知れません。私は自由になったのです。なぜなら私が最も恐れていた不安が現実のものになったのだし、それでも自分は未だ生きており、自分の愛する娘と二人になれたし、自分にはオンボロのタイプライターとデッカイ構想がまだ残っていることに気付いたからです。 

こうして「どん底」は私の強固な基礎となり、それを礎石として私は自分の人生の作り直しをはじめたというわけです。もちろん、皆さんは私のような大失敗はしないかも知れません。でも人生では少々の失敗はつきものです。失敗無しの人生を送る事は「失敗しちゃ、いけない」と臆病になって一切の冒険をしない生き方をする以外、不可能です。それに若しあなたが人生で一回も失敗しなかったのなら、それは臆病者の生きるに足らない人生を過ごしてしまった事を意味するわけですから、そんな人生はそれ自体、失敗だと言えるでしょう。 



An exceptionally short lived marriage had imploded, and I was jobless, a lone parent, and as poor as it is possible to be in modern Britain without being homeless. The fears my parents have had for me, but I had had for myself, had both come to pass. By every usual standard, I was the biggest failure I knew. 

Now I am not going to stand here and tell you that a failure is fun. 
That period of my life was a dark one. And I had no idea that there was going to be what the press has since represented as a kind of fairytale resolution. I had no idea then how far the tunnel extended. And for the long time, at the end of the tunnel was a hope, rather than a reality. 

So, why do I talk about the benefits of a failure? Simply because failure meant to stripping away of inessential. I stopped pretending myself that I am anything other than what I was, and began to direct all my energy into finishing the only work mattered to me. Had I succeeded at anything else, I might never have found the determination to succeed in the one arena where I believed I truly belonged. I was set free because my greatest fear has realized and I was still alive and I still had a daughter whom I adored and I had an old typewriter and a big idea. And so the rock bottom has become a solid foundation on which I rebuilt my life. You might not fail on my scale I did, but some failure in life is inevitable. It is impossible to live without failing at something unless you live so cautiously that you might as well not lived at all. In which case, you failed by default. 

失敗によって学んだかけがえのない「自信」
私はとても貧しい家庭に育ちました。小説家になりたいと思っていましたが、両親は私には将来の職に繋がる学位を取って欲しいと願っていました。貧しさを知っているからこそ、貧乏だけはしないようにと心配してくれていたのです。
でも結局両親には内緒で、私は古典文学にのめりこむことになりました。そして卒業後、私の両親が恐れていたことが現実となってしまいました。結婚生活は短期間で破たん、職も失い、ホームレス一歩手前のシングルマザーになりました。私の卒業してからの7年間は「失敗」そのもので、本当に絶望的でした。
しかし、「失敗」によって得たこともあります。自分に必要なものと不要なものがはっきりしたのです。自分が真に欲するものだけに、すべてのパワーを捧げるようになり、物語を書き始めました。それから、私にはどんな宝石よりもずっと価値のある友人がいるということにも気付かされました。
困難に見舞われなければ、本当の自分の気持ちを知ることも、真の友情を知ることもなかったでしょう。私は「失敗」を通じて、学校の講義では学ぶことのできない経験をして、それを乗り越えたことで、これから何が起きても私は絶対に大丈夫だという自信を手にできました。
 
失敗しないこと自体が、失敗
ここにいるみなさんは、私ほどの失敗を経験することはないと思います。でも、失敗は人生にはつきもの。生きていれば誰でも失敗を経験します。失敗しないということは、挑戦もせず自分の人生を生きていないと同じことです。つまり、失敗しないということ自体が、失敗なのです。
もしも私に魔法が使えれば、21歳の私に「人生の醍醐味は自分が何をやり遂げたかのチェックリストを作ることではない」と語るでしょう。どんなことをやり遂げたかが、幸せの基準だと思いこんでしまいがちですが、そうではありません。人生とは予測不可能なものです。何があるか分からない、だから素晴らしいのです。

無関心は「悪」になる、想像力の大切さ
「想像力」によって、私たちはさまざまな進歩を遂げてきました。
ハリー・ポッターの物語にも反映させた私の体験についてお話します。大学を卒業して間もなく、アムネスティ・インターナショナルというNGOで働いていました。人権侵害された人々の存在を知り、人権を守る活動をする機関です。
拷問を受けた被害者の証言、そして彼らの拷問によって受けた傷の写真も見ました。処刑や誘拐、レイプの目撃証言をつづった手書きの手紙も目にしました。あまりにも悲惨でした。
当時は毎日、人間が他の人間に危害を加えるという「悪夢」を見ていました。しかし同時に、それまでに感じたこともなかった人の善意を目の当りにしたのも事実です。
アムネスティ・インターナショナルでは、拷問をされた経験も投獄された経験もない「普通」に生きている人々が、被害を受けた者の代わりに身体をはって行動を起こします。私たち人間が持っている、他者の立場にたって想像する力がその原動力になっているのです。
人間が、理解し共感することができる能力を持っているということはつまり、人を操ったり、コントロールしたりする人もいるということです。
さらに、想像力を使わない人が多くいるのも事実です。そういった人々は、自分には直接関係ない人々の苦しみから目を背け、無視します。目を背ける方が楽かもしれません。でもそれは悪を黙認し、蔓延させる助けにもなり得るのです。だから私は無関心は「悪」に身を染めるということと一緒だと考えます。

「想像力」で、世界を変えられる
古代ギリシャ人プルタゴスはこう述べました。「自分が変われば世界が変わる」と。これは私が文学の世界に入るきっかけとなったもので、本当に物事の核心をついていると思います。
皆さんは、今後どれほどの人々と関わっていくでしょう。もし皆さんが、苦しむ人々のことを考える想像力を持ち続け、皆さんの力を使って行動を起こすならば、世界中の人々から感謝と愛を受け取るでしょう。世界を変えるのに、魔法は必要ありません。なぜなら、私たちはより良い世界を「想像する力」を持っているからです。世界を変えるために必要なのはこれだけです。
 
人生も物語と一緒!長さよりも内容が大切
最後になりますが、私が卒業式の日に感じていたのはかけがえのない素晴らしい「友情」です。今も続いています。だから皆さんも、今ある友情を今後も大切にしていって下さい。
それから明日になって、私が今日話したことを全く思い出すことができなかったとしてもこれだけは覚えておいて欲しいと思います。古代ローマ人セネカの言葉です。
「人生とは物語と同じで、長さは重要ではない。どれくらい素晴らしいかが重要なのだ」
皆さんの今後のご活躍をお祈りしています。ありがとうございました。