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グリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長は、米国の金融政策に関して「明快なメッセージを送りましたね」とほめられた場合はいつでも、「あなたがそう考えるなら、それはわたしの発言を誤解している」という趣旨の答えを返すことを好んだものだった。だがバーナンキFRB議長は正反対のやり方が好きなようだ。 

バーナンキ議長は5月22日、資産買い入れ(量的緩和)縮小の可能性に言及しながら、いつ縮小を始めるか腹案がないと認めたことで、金融市場に2008年以降では最大級のパニックを引き起こした。その後6週間かけて議長は、緩和縮小の正確なタイミングと縮小できるかどうかの諸条件について念入りに詳しく説明して、自らが招いた混乱を収拾しようと努めた。 

ところがこの過程で議長はさらなる混乱と金融市場のボラティリティ拡大を生み出してしまった。今にして思えば、議長が余計なことは言わず、グリーンスパン氏流のあいまい戦術を真似していれば、世界経済に対してもっとずっと大きなプラスをもたらしてくれたであろう。 

10日に公表された6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、緩和縮小の条件やタイミング、あまつさえ金融政策におけるいかなる変更をめぐる方向性に関して、非常に多くの意見の食い違いがあることが判明したので、緩和縮小をめぐる最近の当局者による講演や会見が、ホワイトノイズ(極めて不規則な雑音)と受け取られたのも、むべなるかなの感がある。 

これはなぜ投資家が一連のすべての混乱に強く反応したのかという問題を提起している。そして最近の世界中で見られた市場の動きからすると、一通りの説明がつく。つまり、FRBの緩和縮小自体は非常に重要な要素ではないが、バーナンキ議長の発言は金融市場に対する警報の役割を果たし、世界経済において忘れ去られたり無視されていたさまざまなリスクに注意を向けさせたということだ。われわれが火災警報を耳にすれば、おのずと次の点を自問する。それは間違いの警報ではないか、または避難訓練なのか、はたまた本物の火事か、もし火事ならどこで起きているのか。 

同様の疑問は、米国の量的緩和縮小についての懸念を分析する何らかのヒントになるかもしれない。米株式市場にとっては、バーナンキ議長の5月の発言が間違いの警報であったのは明らかだった。6月のFOMC議事録で確認されたように、FRBは金融引き締めを決める段階には全然近づいていなかったからだ。それゆえ米株価が議長発言前の最高値圏まで反発したのも不思議ではない。とはいえ、米株式市場の外に踏み出してみれば、緩和縮小観測は間違いの警報というよりも、避難訓練の様相が濃くなるように思われる。 

世界は中央銀行が永遠に国債を買い続けることはないのだと思い出したため、長期金利は急上昇している。この考えに基づき、10年もしくはそれ以上の期間の国債に資金を振り向けている投資家は今、フェデラルファンド金利より2.5─3%ポイント高いプレミアムを要求しつつある。 

経済環境が米国でその様相を呈しているように正常化するのに伴って、こうした期間プレミアムが急上昇するのはまったく自然で、かつ健全な動きといえる。しかし米長期金利の自然な上昇がもし突発的に起きたり、上昇が行き過ぎれば問題だ。だからこそバーナンキ議長は、住宅市場や米金融機関の長期金利上昇に対する脆弱性を試すことで米国のために尽力したのかもしれない。 

一方で欧州、日本、英国といったより経済基盤が軟弱な地域では、各中央銀行は長期金利上昇に抵抗する必要があることをFRBによって知らされた。彼らの経済はまだ米国ほど金利上昇への備えが整っていない。欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(英中央銀行、BOE)が、バーナンキ議長の避難訓練に対応して起こした行動がまさにそういったことだ。 

もっとも欧米から新興国市場に目を転じると、避難訓練のたとえはあまりに自己満足に過ぎるように見える。新興国市場ではバーナンキ議長が最初に緩和縮小に触れて以来、通貨や株式、債券の相場が総崩れで、消費者と企業の信頼感も連動して落ち込んでいる。恐らくは、過去2カ月にわたる金融市場の警報は本当に危険を告げているのだろう。危険が存在するのは米国もしくは欧州ではなく新興国、とりわけ中国だ。 

突如として投資家やグローバル企業の頭から離れなくなっている最大の心配は、シャドーバンキング(影の銀行)システムを規制しようとしている中国当局による締め付けが行き過ぎてしまう可能性といえる。そうなればリーマン・ショックのような金融面の大崩壊か、中国が次の成長局面で頼りにしなければならない民間の消費関連企業における惨憺たるクレジットクランチ(信用逼迫)のどちらかが起きる恐れがある。これらのリスクは、一連の文字通りの「中国のパラドックス」を浮かび上がらせる。 

中国の民間企業は、輸出や重工業の落ち込みで生じた経済の穴を埋める役割が期待されている。だがこうした企業は、大手国営銀行からの融資を拒絶される傾向があるため、影の銀行システムに大きく依存している。だから中国当局が影の銀行システムを制御しようとする努力は、金融安定化には不可欠であるものの、これからの経済成長に向けて頼りになる民間企業を窒息させてしまいかねない。 

中国政府としては、国営銀行に融資先をインフラ、不動産、輸出業者から消費関連の民間セクターに強制的に転換させることで、こうした問題を克服しようとするかもしれない。ただ、金融システムの統制主義を強化して民間市場経済の成長を促すという点には明らかに矛盾がある。そんな矛盾からうかがえるのは、中国の共産党支配に基づく資本主義が限界に達しつつあるのではないかという憂慮すべき可能性だ。 

中国はこの30年の諸改革においてこうした数々の矛盾の解決に成功しており、今度もうまくいく公算は大きい。それでも、国営企業と銀行が支配する投資主導の経済から、民間企業主体の消費主導経済への移行を進めようとする中で、中国の経済モデルに根本的な不具合が起きることは、世界経済が現在直面している最大のリスクだろう。 

ユーロ解体と同じく、これは蓋然性は低いが発生した場合の影響は甚大だ。それに比べればFRBが自らの金融政策に関して決断を下すか下さないかなどは脇道の問題にすぎない。最近の市場の動きから判断すると、投資家はこうした結論にたどりつきつつある。 



*アナトール・カレツキー 
受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。 
1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。 
2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。 
世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。 




◇中国地方政府の破綻という悪夢、代表格は江蘇省か 

中国経済を急成長から脱皮させようと試みる政府指導部にとって悪夢のシナリオは、地方政府が自らの債務の重みで崩壊することだ。最も多額の債務を抱える江蘇省がその代表格といえる。 

公式統計によると、江蘇省の省、市、郡政府は銀行や投資信託、起債を通じて借り入れを膨らませており、債務は他の地方投資をはるかに上回っている。 

造船や太陽光パネル製造など、同省の主要産業の多くは過剰な生産能力を抱え、利益は低迷して税収は伸び悩んでいる。中央政府が経済の投資依存を減らし、サービス業・消費主導型経済への移行を図っていることにより、江蘇省は打撃を被りやすい状態にある。 

政府は改革の一環として、多くの地方政府にとって主な資金源である借り入れと土地売却の取り締まりを命じる一方で、産業の縮小に伴うコストを地方政府自らが吸収することを期待している。江蘇省のような省にとっては八方ふさがりの状況だ。 

スタンダード・チャータード、フィッチ、クレディ・スイスの推計によると、中国の地方政府の債務は国内総生産(GDP)の15─36%相当、額にして最大3兆ドルに上る。 

ドイツ銀行のグレーターチャイナ担当チーフエコノミスト、ジュン・マー氏は「中国地方政府の債務は、うまく管理しないとシステミックかつマクロ経済的リスクを同国にもたらし得る。これにはブラジルの先例があり、1989年、93年、99年の危機は州政府の過剰債務が根本原因だった」と話す。 

中国地方政府の債務総額について公的な情報は乏しいが、格付け会社やシンクタンクの情報を総合すると、江蘇省の債務リスクは全31省の中でも突出している可能性がある。 

江蘇省が中国経済に大きなリスクをもたらしかねないことは明らかだ。同省の域内総生産(GDP)は20カ国・地域(G20)メンバーであるトルコを超えて世界の上位20カ国に食い込む規模で、人口は7900万人と大半の欧州諸国を上回る。 

<ストレスの兆候> 

江蘇省政府の財政に重圧が加わっているさなかで、省内主要企業の中には経営が行き詰まり、当局に救済を求めるところが出てきている。中国最大の民間造船会社、中国熔盛重工集団(1101.HK: 株価, 企業情報, レポート)は今月、地方政府に財政支援を要請した。 

中国最大の太陽光パネル・メーカーの子会社である無錫サンテックパワーはことし、破産申請を行った。複数の関係筋によると、同社は江蘇省無錫市の政府に財政支援を求める意向もある。 

ストレスが高まっている兆候は他にもある。中国メディアによると、経営難に陥った一部の地方企業は個々の職員に最大60万元(9万7800ドル)の資金調達ノルマを貸し、達成できない場合には勤務を許さないため、多くの職員が親戚や友人に金の工面を頼んでいるという。 

地方政府にとっての主な資金調達手段は、借り入れか不動産デベロッパーへの土地売却しかない。地方政府は地元の経済開発を担っているが、税収の4分の3は中央政府に吸い上げられる。 

しかし無錫市のある村の住人によると、市政府はデベロッパーに売るためとして住宅を破壊して更地にしているが、家主に収用代金を支払うための資金が不足している。「私の父は600平方メートルの土地を持っていたが170平方メートルを失った。市政府は父に『あなたは住宅を多く所有し過ぎている』と言って支払いを拒んだ」という。 

中央政府は地方政府に対する銀行融資を絞めつけているため、江蘇省はシャドー・バンキング(影の銀行)からの借り入れを急増させている。 

データ提供会社ユーズ・トラストによると、2012年に中国で販売された投資信託のうち、江蘇省内の自治体が発行したものは30%を占めた。 同業のウィンド・インフォメーションによると、12年の同省の債券発行額は3430億元で、中国で最も財政が豊かな広東省の3倍に上る。 

無錫市だけでも投資信託の発行により92億元を調達し、銀行融資金利の6%を大幅に上回る10%近くのリターンを投資家に与えた。この資金の一部は不動産デベロッパーに土地を売ったり工業団地を建設するために村を更地にする資金に回された。 

増大する中国の不良債権において、江蘇省が大きな割合を占めているのも不思議ではないだろう。中国メディアが先月引用した中国人民銀行(中央銀行)幹部の発言によると、2013年1─5月の不良債権増加分の40%を江蘇省が占めた。 

中銀や監督当局に政策助言を行っているトリプルTコンサルテイングのマネジングディレクター、ショーン・キーン氏は「モラルハザードの有無を点検するため、ある程度管理されたデフォルト(債務不履行)を起こせば市場は歓迎するだろうが、中国政府にその態勢が整っているかどうかはおぼつかない」と話した。 




◇中国シャドー・バンキングと理財商品 

(1) 中国崩壊などと騒がれているけど、何がどうなっているの? 

「理財商品」と呼ばれる高利回りの投資商品が中国に跋扈している。その理財商品が破綻して、金融パニックが起こり、中国は日本の失われた20年以上の大変な事態に突入し、経済が崩壊するというレポートを目にすることがある。 

銀行は陰でコソコソとゾンビ企業に融資している。すべては非公開のオフ・バランスで行われるシャドー・バンキングだとも言う人もいる。 

情報公開が無きに等しいので、勝手な推測が行われているし、言葉の使い方も不正確なものが多い。現状で集められる情報を総合すれば、以下のような事が実態に近いと思われる。 

(2) まずは、2008年以降の経緯から振り返ってみよう 

2008年9月のリーマン・ショックが引き起こした世界的な不況懸念に対応するために、中国は4兆元(64兆円)の経済対策という大盤振る舞いを実施した。 

ただし、必要な資金手当てに関しては、中央政府の負担は半分以下(私の記憶では、30%程度)であり、多くは地方政府が自前で資金を調達する必要に迫られた。 

その資金調達のために活用されたのが、「地方政府融資平台、LGFV:Local Government Financing Vehicleと呼ばれる」という地方政府が支配する投資会社である。北京政府に説得された銀行、地方政府に近しい銀行が、地方政府融資平台に大規模な融資を実施した。(私に記憶では、後年問題が起こったとしても、国が面倒を見ると言って、銀行に融資の実行を迫っていた) 

期限が来ると銀行の融資は返済しなければならない。当初はスンナリと借り換えに応じていた銀行も、地方政府融資平台の乱脈経営が問題視(返済できるキャッシュフローが無いという指摘レポートの登場)されるようになった2011年以降は、銀行は簡単には借り換えに応じなくなってきた。また北京政府も、野放図な地方政府融資平台の借り入れ増大を停止する政策を採用し始めた。 
( 2011年後半から雲行きのおかしくなった国内景気を考慮して、銀行の貸し出しは選別色を増している。同時に、リスクを投資家に移転する理財商品の活用は重要性を増している。) 


地方政府融資平台が投資している事業は短期間で資金を回収できるようなキャッシュフローを生む投資案件では無い。道路、建物、その他インフラ、しかもこれらは採算性が低い。今後も長期間にわたる借り換えの継続は必要である。 

銀行の貸付態度の硬化に直面した地方政府融資平台だが、借り換えが出来なければ破綻する。どこからか金を引っ張ってこなければならない。そこに登場したのが、「理財商品」と呼ばれる高利回りの投資商品である。 



(3) これまでに読んだり聞いたりしたニュースとデータを総合すれば 

銀行の融資では無いが、資金を必要とする企業などに資金を融通しているものを総合して「シャドー・バンキング(銀行のBSに乗らない融資という意味)」と呼んでいる。シャドー・バンキングの定義は国や地域によって異なっているが、G20ベースのFSB(金融安定理事会)では、「通常の銀行システム外で、信用仲介をする」ものと定義されている。 

中国におけるシャドー・バンキングには以下のようなものがある。なお、規模は商品の性格上、日々変動し、しかもデータは非公開である。入手できたデータは全て推計値であり、時点もバラバラである。それらを総合的に勘案して2012年末の規模を私なりに推定している。 



1: 委託貸付(6兆元、96兆円) 

資金を欲しているA企業に、資金の余裕があるB企業を、銀行が紹介する。貸し手、借り手、仲介銀行、すべては見えているし、3者ともに相手を知っている。それゆえ返済不能リスクなどで問題化するリスクは低いと言われている。銀行は紹介手数料を得る。企業間の直接融資は禁止されているようだ、裏は録っていない。 



2: 理財商品(7兆元(112兆円)、最低5万元(80万円)、期間1か月~1年) 

銀行が販売する小口高利回りの資産運用商品、主流は3か月。銀行は、ここで得た資金をより高い利回りが得られる対象(株、債券、信託商品)で運用する。地方政府と関係の深い地方銀行は、地方政府融資平台や支配下の企業が発行する株や債券に資金の一部を投じていると言われる。 

7月時点では、銀行の1年定期預金金利:3.25%に対し、理財商品の予想利回り:4%~6.25%となっている。理財商品は銀行が運用リスクを負わないので、バランス・シートに掲載されない。資金の出し手の過半数は個人と言われている。 



3: 信託商品(5兆元(80兆円)、最低100万元(1600万円)、期間1年~) 

信託会社が、個人や銀行から集めた資金をプールして、コール、国債、金融債、株式に投資する。銀行の理財商品で集めた資金の受け皿(銀信合作スキーム)となっている事が多い。地方政府と関係の深い信託会社は、地方政府融資平台や支配下の企業が発行する株や債券に、その資金の一部を投資していると言われる。 

7月時点の予想収益率は、9%前後が多い。最低投資単位が大きいので、個人の割合は理財商品より小さくと推定される。 



4: 民間同士の貸し借り(3兆元、48兆円) 

資金を欲している人に、資金の余裕がある人が、相対で金を貸す。貸し手、借り手、すべては見えているし、相手を知っている。それゆえ問題化するリスクは低いと言われている。また、一件あたりの金額も小さい。 

中国では銀行融資を得られない中小企業の個人事業主が圧倒的多数であり、この民間同士の貸し借りは昔から普通に行われてきた通常の経済行為である。 



5: 金融保証会社による融資保証(2兆元、32兆円) 

これは上記の貸付契約に関するリスク移転機能であり、貸付残高を重複計上するべきものではないと思われる。 

上記1,2,3,4,5の中で、理財商品と信託商品が、地方政府との癒着度合いを含め、リスクが高いと推定できる。なお、両商品ともに銀行業監督管理委員会の許可を得なければ販売できない。 



(4) 何故今になって、騒がれているのか? 

リスクを含んでいるのは理財商品と信託商品だが、これらが騒がれている背景は以下のようなものである。 


1: プールされた資金による期間のミスマッチ・リスク 

理財商品と信託商品は、短期で集めた資金をプールして、それを長期の資産に投資している。資金の出し手が満期後に再投資をしない状況が一斉に発生した時、銀行システム外の商品であるために、中央銀行が直接的に流動性危機を救済する事が出来ないので、金融パニックが発生するリスクがある。 

2: 銀行システムへの悪影響 

実績配当商品ではあるものの、多くの金融機関が国営の中国では、自己責任の意識は低く、満額償還が行われない場合は、取り付け騒ぎ、暴動などが良質な金融機関へ波及する恐れがある。 

3: 地方政府融資平台とその支配下企業の破綻 

理財商品と信託商品を提供する金融機関の多くは、地方政府と近しい関係にあり、両商品から地方政府融資平台とその支配下企業へと資金の一部が流れている。2012年以降の低迷する景気状況から、地方政府融資平台の出資先や支配下企業の業績は芳しくない。両商品からの資金パイプが切れた場合は、地方政府融資平台が破たんし、それは地方財政の破綻につながるリスクを内包している。 



(5) 今後起こりそうなイベント、シナリオ 

2010年12月に中国人民銀行は「社会全体の資金調達総額」という概念を導入し、2011年からシャドー・バンキングのコントロールを始めた。 

1) 理財商品と信託商品の中には、政府の経済政策に反して、投機的不動産業、汚染公害バラマキ企業へ投融資したり、損失隠しに加担するケースも見られる。一罰百戒として「1995年の広東国際信託投資公司(GTIC)の倒産」のようなイベントが起こる可能性は高い。ある程度の自己責任原則の社会への警鐘は必要である。 

なお、個人資産に占める理財商品の割合は約3%だと言われている。64%を占める銀行預金に比べて非常に小さな割合である。仮に一部の理財商品が償還不能になったとしても、実害は限定的であると思われる。 

2) 理財商品の償還不能が社会的な不安を呼び、銀行の取り付け騒ぎに発展するリスクが生じた場合、多くの銀行が国営である中国では、「国営銀行の破綻=一党独裁の共産党への不支持」という流れに変質するリスクがあるが、それは政治的には許容されない。 

したがって、良質な銀行に悪影響が及ぶリスクが高まった場合には、両商品に対する強制的な満期延長、中央銀行の超法規的な特別融資による銀行システムの保護と民心の安定措置が実施されるだろう。同時に悪質金融機関のおとりつぶしは継続されるだろう。 

3) 理財商品と信託商品で集められた資金はプールされているので、地方政府融資平台とその支配下企業へと資金が流れている資金パイプは、両商品への資金流入の停止と同時に切断されるわけでは無い。両商品の償還資金の手当てが不能になるだけだ。しかし、地方政府融資平台とその支配下企業へのローンは有期契約であり、ローンのロール・オーバーは不能になる。 

地方政府の破綻という概念は中国には無く、また地方政府の破綻=一党独裁の共産党への不支持、という流れに変質する事は政治的には許容されない。 

地方政府融資平台の放漫経営と地方銀行との不正な癒着が大きいほど、北京政府からの独立性が高いと言われている。地方政府融資平台と地方政府の破綻を救済することを通じて、中央のコントロールを強化するプロセスが進行するだろう。名目経済が10%以上で成長している中国では、救済のための財政資金の余裕を中央政府は十分に持っている。 



(6) 金融自由化の途上にある中国 

金融の自由化が始まったとは言え、いまだ初期に過ぎない中国では、預金金利は規制されている。 

多くの国営系企業は非効率で競争力が無い。民間企業との競争で淘汰されると多くの雇用が失われる。それは官僚(特に地方政府の官僚)の大失点とされる。そのために、地方政府は近しい地方銀行に対して、国営企業に安い金利で大量にローンを出すように圧力をかけている。 

ローンの総額も北京政府によって規制されている。その結果、安い金利で大量に国営企業にローを出しと、民間企業にはローンが供給されない。その結果、民間企業は銀行以外から資金を調達せざるを得ない。不景気とは言え、名目で+10%以上も成長している中国経済、資金需要は旺盛である。 

経済成長にインフレに比べて、不自然に低く抑えられた預金金利だが、競争力の無い国営企業へのローンを維持するための必要悪と認識されている。 

一方、徐々に豊かになってきた中国では、少しでも有利な投資商品を求める声が高まっている。株式が好調な時は株式に、不動産が有望なら不動産へ、「お金は高い所へ流れる」のは自然の摂理である。 

理財商品や信託商品は金融自由化、市場経済化の流れの中で拡大してきた新商品であり、北京政府としても健全な育成を望んでいる。そのための法整備、ルール作成が2011年以来急速に進んでいる。 

なお、理財商品と信託商品の破綻で大量の資金が中国から流出し、人民元が暴落するような事を言うレポートもあるが、資本規制が維持されている中国と人民元の場合は、それは起こらない。つまり、大規模な資金流出も起こせないのだ。 






◇世界的同時大インフレの到来懸念  

■ 経済の歴史は、「借金棒引き」の歴史 ■ 

世界の経済の歴史は「借金チャラ」の歴史だと思うのです。これは「徳政令」という形を取る場合と、「インフレ」という形を取る場合があります。 

徳政令は日本においても鎌倉時代から何度も実行されています。松平定信の寛政の改革の時に出てくるのが棄捐令も武士の借金棒引きでした。 

一方、インフレによる借金棒引きの例としては、第一次世界大戦後のドイツが良い例かも知れません。戦後の巨額な賠償をする為に、通貨を大量増刷した結果、ドイツ国内ではハイパーインフレが発生します。 

日本も戦中に発行した軍事債権の償還によって、円が大量に発行され、大規模なインフレが発生しています。このインフレと資産税によって、国民の資産は政府に吸収されています。 

■ インフレの前段階としての政府の借金の拡大 ■ 

信用創造という通貨システムは、謝金によって拡大して行きます。民間が借金する場合と、政府が借金をして経済を拡大するケースとがありますが、何れにしても経済はより多くの借金によって拡大します。 

ここ20年程で世界が行なって来たのは、先進国で金融市場を拡大して、借金を急拡大させ、そこから魔法の様に生み出した資金を新興国に投資して、新興国の成長を加速度的に高めるという政策では無いでしょうか。 

普通に経済を回していたのでは、新興国は100年経っても現在の経済水準には達し得なかったのでは無いかと思うのです。 

一方で、金融市場の急拡大には、巨大な資金流入が必要です。これは中央銀行が低金利を維持したり、あるいはバブル以降の日銀の緩和マネーが貢献しています。 

この様に現在の世界経済は一国の中では収まらずに、先進国でストック市場を拡大して、そこから溢れ出した資金で新興国のフローを成長させて来たとも言えます。 

但し、先進国のストック市場は必ずバブル崩壊を起しますから、何処かの時点で借金の棒引きが行なわれるはずです。現在世界は民間の借金を国債購入という形で中央銀行や政府に付け替えています。この先に予想されるのは、世界的な通貨の信用危機、即ちインフレの発生です。 

■ FRBの出口戦略は成功せず、逆に量的緩和は意図的に拡大するのでは? ■ 

FRBの出口戦略が話題になっていますが、多分、出口戦略は失敗に終わるのでしょう。現在の市場はFRBの緩和マネーに支えられていますから、出口を匂わせただけで、容易に市場は暴落します。結果的には、市場を安定させる為に、FRBは緩和規模を拡大させると思われます。 

FRBにしても、日銀にしても、「量的緩和」という呼び名は本質を見え難くしています。実際に行なわれていうのは、民間の不良債権と国債を市場から中央銀行が買い上げるという行為です。その結果、中央銀行のバランスシートはドンドンと不良債権が積み上がって行きます。 

これを主要通貨が同時に行なっているので、為替的にはバランスしていて、通貨価値の極端な変動は観測されません。しかし、通貨制度自体に巨大な歪みが生じている事を誰もが薄々気付いています。 

■ 何かのショックで一気に危機は噴出する ■ 

こうやってジワジワと溜まるストレスや歪みは、経済指標には反映され難いものがあります。 

誰もが昨日と変わらぬ明日が訪れる事を疑わず、市場も若干ピリピリしながらも、明日の儲けを皮算用して今日を終えます。 

しかし、リーマンショックの様に、歪みはいつかは何処かで問題を顕在化させます。 
その時になって、市場は一気に我に返り、大暴落を演じます。 
政府と中央銀行が大量に資金を注入して市場を支えようとしますが、その結果、政府と中央銀行のバランスシートは絶望的なまでに悪化します。 

事、ここに至って、人々は「通貨の信用」と「国債の信用」に疑問を抱きます。 
「信用」が疑われた瞬間に、人々は国債や通貨から、現物で価値の保全を図ろうと必死になります。 

その結果、国債が暴落し、通貨価値が喪失して大規模なインフレが発生します。 
原油や穀物価格が高騰し、金が高騰し、そして土地や不動産が高騰します。 

この様なパニック的なインフレに対して、中央銀行の金利引き上げは無力です。 
人々は日々値上がりする物価を前に、現金を引き出して現物に変える事を選択します。 
金利が物価上昇に追いつかないからです。 

■ インフレによって借金は棒引きされる ■ 

結局、信用創造という現在の通貨システムは、返済不可能な借金を生み出します。 
そして、それが拡大すると、流動性の罠によって経済は停滞します。 

現在の世界は正にこの状態に陥っており、金融市場の拡大でこれを乗り切ろうとすると、結果的にバブルの崩壊を引き起こし、事態は加速度的に悪化します。 

こんな事は、中央銀行の関係者で無くても皆が理解しています。 

だから私は現在の世界で起きている事は、偶然では無く、必然だと判断しています。 
中央銀行は意図的に量的緩和を拡大し、政府は意図的に国債発行を拡大している・・・と。 

そして、その先に待ち受けるのは、インフレによる借金棒引きです。 

但し、その為には期待インフレ率を遥かに上回るペースでインフレが進行する必要があります。 
現在の世界はその為のエネルギーを蓄えている状態では無いかと思います。 

多分、今年後半にFRBは出口戦略に躓いて、緩和規模を拡大するのではないでしょうか?そろそろエネルギーチャージも佳境を向かえるのでは? 


*人力さんのブログから転載 



★マーク・ファーバーは「Dr. Gloom(陰鬱博士)」というニックネームを持つ投資家です。 
そのマーク・ファーバーが「今のマーケットは1987年の大暴落の前と酷似している」とコメントし、ウォール街で話題になっています。 


1.株価指数は上昇しているが企業収益は伸びていない 
2.87年は株価指数が上昇するにつれて新高値銘柄数が減った 
3.現在、株価指数は新高値圏にあるが新安値銘柄数は意外に多い 
4.ここから20%程度の調整があるだろう