「セラピーセッション」という言葉を聞くと、多くの人はソファーで幼少期の暗い記憶を掘り起こす1時間を連想する。
ところが、焦点を現在と未来に合わせることが、人々をより幸せに、健康にし、人間関係の改善にもつながり得るということを、ある異なるアプローチが示唆している。

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時間的展望療法と呼ばれるこの方法では、その人が次の6つの異なる展望のどれを持っているかを理解することが必要となる。 

 ◇過去肯定型: 過去に満足している 

 ◇過去否定型: 後悔していることがあり、過去に嫌なこと、あるいは今になって大げさに嫌だったと感じていることが起きた 

 ◇現在快楽型: 現在を楽しみ、自分に褒美を与えるのが好き 

 ◇現在運命型: 自分では出来事をコントロールできないとあきらめている 

 ◇未来型  : 事前に計画し、あらゆる決定の費用と便益を天秤にかける 

 ◇超越未来型: 褒美は死後の天国にあると信じ、まじめな人生を送る 


心理学者でスタンフォード大学の名誉教授であるフィリップ・ジンバルド氏は、 
高いレベルの過去肯定型、 
適度に高いレベルの未来型、 
適度なレベルの選択的な現在快楽型 
が混ざっているのが最も好ましいプロフィールだと話す。 

言い換えると、 
その人は過去に満足しており、未来のために働いていて(仕事中毒になるほど過度にではない)、 
現在においては快楽を追う時を選んでいる。 

この分野で影響力を持つ思想家であり、広く講義を行っているジンバルド教授は、患者のプロフィールを決定するために56項目の質問表を用いている。 

高いレベルの過去否定型と高いレベルの現在運命型が組み合わさると、最悪の時間展望プロフィールとなる。 
『The Time Cure』の共同著者でもあるジンバルド教授は「こうした人々は否定的な過去に生きており、それを変えるためにできることなどないと考えている」と指摘する。 

そうした人々は現在快楽型と未来型のスコアも低くなっている。 
臨床的にうつ状態の人、あるいは心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っている人は概してそうしたプロフィールを持つ。 

われわれが個々に持つ時間的展望は家族や友人、文化、宗教、教育、人生の出来事など、多くのことに影響される。 
幼児期には誰もがほぼ純粋な快楽主義者で、欲しい時に欲しいものを得ることばかりを考えていた。 
しかし、年を重ねるにつれ、全員ではないが、より未来型になる人もいる。 


現在、コロンビア大学の教授であるウォルター・ミシェル博士は1960年代の有名な研究で、幼い子供が未来の目的のために誘惑に抵抗する能力を調査した。 

同氏はそれぞれの子供の前に1つのマシュマロを置き、食べたければすぐに食べてもいいが、10-15分待つことができれば2つ目がもらえると説明した。 
約半数の子供がそれをすぐに食べてしまい、残りの半数は2つ目のマシュマロのためになんとか我慢することができた。 

その子供たちが幼い頃に持っていた時間的展望は、その後の人生でどう行動するかにも大きな影響を与えた。 
ミッシェル博士はその子供たちが10代になったときと中年になったときに追跡調査を行った。 

4、5歳の時にマシュマロの誘惑に抵抗できた子供たちの学業成績は誘惑に負けた子供たちよりも優れていて、大学進学適性試験(SAT)では平均で約250ポイントも上回り、より幸せな家庭生活を送っていた。 
すぐにマシュマロを食べてしまった子供たちは、その後の人生でより多くの精神的な問題を抱えた。 

とはいえ、朗報もある。 
人々は時間的展望を変えることができるとジンバルド博士は言う。 
ジンバルド博士の共著者でマウイ島在住のセラピスト、リックとローズマリーのスウォード夫妻が2004年から12年にかけて他のセラピーでは良い結果が出ていなかった心的外傷後ストレス障害を抱える32人の兵役経験者に時間的展望療法を施した。 
すると32人全員の不安、うつ状態、PTSDの症状が大幅に軽減された。 

ジンバルド博士によると、人は自分の過去にあった良いことに焦点を合わせることで過去肯定型のスコアを引き上げることができるという。 
それには、写真アルバムを作る、インスピレーションを与えてくれた人に感謝の手紙を書く、自分の家族の口述歴史をまとめ始めるといった方法がある。 

未来型志向は、予定表を整理したり、家族との休暇を計画するなど、肯定的な未来を思い描いて計画し始めることで高めることができる。 
また、ボランティア活動をしたり、誰かの良き相談相手になることで、自分の行動はプラスの影響を与え得るということに気付きやすくなる。 

そして、現在快楽型のスコアを選択的に高めるには、運動や自然を楽しみながらの散歩など、気分が安定するようなことをすればいい。 
また、仕事で頑張った褒美として、友人との食事、マッサージ、午後にするお気に入りのスポーツなど、自分が楽しめることをすべきである。 

過去否定型のスコアを下げるためには、瞑想をしたり、現在の生活で継続中の良いことをリストにまとめたりすることで、自分の中の悲観的な批評家を黙らせようとすることができる。 
「あのときのつらかったことではなく、今の生活の良いところについて考えるのだ」とジンバルド博士は言う。 

新たな技術を学んだり、自分が変わったことに気付けるような趣味を始めることで、未来に関する宿命的展望を軽減することもできる。 
またパートナーと一緒にやることで孤立感を軽減したり、好意的な意見を得られたりもする。 

  
ドミニク・モナハンさんは09年に印刷機メーカーのプロジェクトマネジャーの職を解かれ、シカゴ郊外にある母親の家の地下室に移り住んだとき、当然だが、否定的な展望を抱いた。 
数百枚の履歴書を送ったが、面接のチャンスさえ与えられなかった。 
「希望を失った私は過去に生きていた」、「あきらめようと思っていた」と42歳のモナハンさんは振り返る。 

モナハンさんはすぐに満足することを常に重視してきたと認めている。 
マウンテンバイクに乗ったり、走ったり、狩りをしたり、勉強ではない何かをすることが好きだった。 
大学を中途退学し、海軍に入隊し、除隊後にはいくつもの技術職に就いた。大学にも何度かチャレンジしたが、卒業はできなかった。 

職を失った後、モナハンさんは精神療法も試したが、カネを払って不満を聞いてもらっているだけだと感じてやめてしまった。 
時間的展望療法こそ試さなかったが、彼の経験はこの方法が下方スパイラルに陥っている人を回復させるのに役立ち得るということを示唆している。 

ピーナッツバターをスプーンで食べ続けたことで、モナハンさんは最終的に27キロも太り、1日に18時間も寝るようになった。 
彼が生活を一変させようと決意したのはスウェットパンツがはけなくなったときだったという。 
インターネットで金融学の学位を取得できるコースに登録すると、集中講座のおかげもあり進歩を実感できた。 
モナハンさんは最近そのコースを卒業し、新技術を使って下水を処理する会社で臨時雇いコンサルタントの仕事も得た。 

モナハンさんは運動を再開し、テコンドーも習い始めた。 
彼のインストラクターは心理学者でもあり、否定的な内なる声に反論することを教えた。 
過去の失敗に思いを巡らし始めたり、希望などないと弱音を吐きそうになる度に、彼は「やめろ……こんなことをしていては肯定的な方向に進めないし、幸せにもなれない」と口に出して言っている。 

モナハンさんは今も母親の家に住んでいる。 
16キロ近くの減量に成功した彼は、金融アナリストの職を探していて、未来に目を向け続けられるのはテコンドーで昇級するという目標があるからだと話す。 

モナハンさんは、これまでの小さな歩みが積み重なり、「力添えになったおかげで、否定的な過去から抜け出して今に生き、未来に向けて計画できるようになった」とし、「それが徐々に私の潜在意識を変え始め、希望はあると信じられるようになった」と話す。 



*By ELIZABETH BERNSTEIN