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アマゾンもう1つの巨人 クラウドが通販を超える日 

米アマゾン・ドット・コムがクラウドコンピューティング事業で快走している。得意とする中小・ベンチャー企業向けに加え、大企業や官公庁からも相次いで受注に成功。同分野で独走状態を築きつつあり、ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)も「長期的にインターネット通販を上回る可能性がある」と自信を深める。ネット通販で圧倒的な強みを誇るアマゾンが、もう一つの“巨人”となるための課題を探った。

■気がつけば無視できない存在に…
 米セールスフォース・ドットコム、米マイクロソフト(MS)、米IBM、米グーグルの4社の売上高を合わせても、アマゾン1社より15%も少ない――。米調査会社のシナジーリサーチグループは11月下旬、こんなリポートをまとめた。調査対象はクラウドでインフラを提供するIaaS(アイアース)とプラットフォームのPaaS(パース)だ。
同社によるとアマゾンがアマゾンウェブサービス(AWS)の名称で提供するクラウドサービスの売上高は7~9月期に前年同期比55%増え、7億ドル(約720億円)を突破。アマゾンは情報開示にどちらかといえば消極的なことで知られており、クラウド事業の実績、予想ともに非公開だが、2013年12月期は35億~40億ドルに達するとの見方が有力だ。

 AWSの勢いを示す“現場”が米ラスベガスにあった。

 AWSが11月中旬に開いた利用企業・開発者向け会議「re:Invent」には初回の昨年より5割多い9000人が参加。IBMが「クラウド事業では当社の方が上」と訴える広告を大規模に展開するなど、アマゾンのAWSが既存のIT(情報技術)業界にとって無視できない存在になっていることを印象づけた。

■クラウド活用に6つの利点
会議の初日、AWSを率いるアマゾンのアンディ・ジャシー上級副社長はクラウドを使う「6つの利点」を強調した。(1)IT関連費用の変動費化(2)コスト低減(3)必要なコンピューター能力の事前推定が不要(4)柔軟性やスピードの向上によるイノベーション(技術革新)の促進(5)IT関連社員の戦略部門へのシフト(6)世界展開が容易――というのがその内容だ。

 AWSなどのパブリック(共同利用)型クラウドを使うとIT機器の購入や運用が不要になり、コストを下げられるというのはもはや常識になりつつある。ジャシー副社長は「サービスを安く提供すれば利用企業が増え、規模の経済により機器の購入費用が下がる。そすうるとさらに値下げが可能になり、顧客が増える」と自社の“勝利の方程式”も披露した。
AWSの普及を促すため、アマゾンは積極的な値下げを提案している。AWSには必要に応じてサービスを買う「オンデマンド」や一定費用を前払いして予約する代わりに単位時間あたりの料金が安くなる「リザーブ」などのプランがある。オンデマンドを多用している企業には「この使い方ならリザーブの方がお得です」と勧めるといった具合だ。
アマゾンによるとこうした提案は年間100万回。このうち70万回に反応があり、顧客は1億4000万ドルを節約したという。「顧客に節約を勧めて回る企業はそう多くはないはずだ」とジャシー上級副社長。アマゾン主催の会議のためどうしても宣伝の色彩が濃くなりがちだが、この発言にはうなづかずにはいられなかった。

■大企業をターゲットに攻勢
 アマゾンが攻めの姿勢を強めているのが「エンタープライズ」の分野だ。直訳すれば「企業」になるが、同社はベンチャーを「スタートアップ」と称することが多いため、これに対して「大企業」を意味する言葉だと理解した方が分かりやすい。官公庁や教育機関を含め、クラウドの導入に慎重だった顧客を開拓しようとしている。
AWSの顧客規模については「世界190カ国に数十万社」と昨年の説明を踏襲したが、政府機関は600(昨年は300)、教育機関は2400(同1500)と1年間の成果を披露。昨年の会議で発表したペタ(1000兆)バイト級の大規模データの分析に対応したデータウエアハウスサービスも大企業から評価が高く、「最速で成長している」と説明した。

 顧客企業の代表格として紹介したのは、ウォール・ストリート・ジャーナルなどを傘下に持つ米ダウ・ジョーンズ。同社でグローバル最高技術責任者(CTO)を務めるスティーブン・オルベン氏は、今後3年で同社のITインフラの75%をAWSに移行し、自社のデータセンター(DC)を40カ所から6カ所に減らす計画を明らかにした。1億ドルのコスト低減を見込んでいるという。

 オルベン氏は「当社のコンテンツは世界最高だが、情報基盤はそうではなかった」と発言。「多くのDCを抱えており、インフラの管理に時間や費用がかかっていたことが原因のひとつ」と説明した。AWSの活用で浮いた費用や人材をアプリ(応用ソフト)開発などに充て、サービスの競争力を高める方針だ。

 AWSは「DCなどの運用を当社に任せれば、企業はIT関連の経営資源を他社との違いを出すために活用でき、ベンチャーのように機敏になる」と繰り返しており、ダウ・ジョーンズのオルベン氏はそれを側面支援した格好になる。
情報の管理に敏感なメディア企業がクラウドを活用することで、中小・ベンチャーに加えて、クラウド利用に慎重だった層も同技術を取り込みつつある現状が垣間見られた。

■「慎重派」も顧客に
 勢いを増すアマゾンだが、もちろん課題もある。競合サービスの増加だ。IBMは今夏、AWSと同様のサービスを提供する米ソフトレイヤーを買収。グーグルも12月初め、AWSの対抗サービスとなる「グーグルコンピュートエンジン」を一般公開し、値下げにも踏み切った。MSも「ウィンドウズ・アジュール」の値下げ攻勢を強めている。
会議でジャシー上級副社長はグーグルやIBMなど競合企業を度々「守旧派」と呼んだ。「競合のプレッシャーがなくても(AWSは)06年のサービス開始から現在まで38回も値下げした」と胸を張るが、このうち15回は競争の激しくなったこの1年に実施。「ライバルではなく顧客のことを考える」はアマゾンの社訓のようなものだが、ある程度は競争環境を意識せざるを得ないのも事実だ。

 この点をジャシー氏に直接聞くと、「競合の増加は想定内」との答えが返ってきた。「クラウドが顧客に提供する価値は大きく、ライバルが参入することは分かっていた」。それでも「当社には7年半の経験があり、さらに利幅の小さいビジネスを大規模に展開することにたけている」というのが自信の源だ。

■通販を逆転するのは2045年?
ベゾスCEOはクラウド事業の売上高が通販を上回る可能性があると話すが、「長期」とはどの程度の期間かを尋ねると「数十年単位」という。過去5年間の通販事業とクラウドを含む「その他事業」の平均増収率から単純計算すると、逆転の“Xデー”は2045年。ベゾス氏は宇宙開発や1万年時計などにも投資しており、その感覚からすると、これくらいの時間軸でも不思議ではない。

 コンピューターの世界でひとつの技術や企業が数十年単位の長期にわたって覇権を握ってきた歴史はない。メーンフレームコンピューターからパソコンへ。そしてモバイル機器やクラウドの時代に――。変化のスピードは増しており、技術や企業の旬がどんどん短くなっているのはだれもが認めざるを得ない。

 日々登場する先進技術に取り残された企業はいずれも、顧客が発する変化の兆候を見落とし、支持を失っていった。ジェシー上級副社長にクラウド事業のリスクを尋ねると、「顧客ニーズに応え続けること。そうしないと見捨てられる」と打ち明けた。IT大手に伍(ご)してAWSがシナリオ通りの成長を遂げられるかどうかは、その点にかかっている。

(シリコンバレー=奥平和行)


Amazon Prime Air
           
      アマゾンが研究・開発中の無人機を使った配達サービス「プライム・エア」

アマゾンの無人機開発がジョークでない理由

米インターネット小売大手アマゾン・ドット・コムが商品配達に用いる無人機の開発に取り組んでいるというジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)による発表は、現時点では過大広告に過ぎないようだ。それでも、殺風景な土地を超えて単独飛行する無人機のように鮮やかに舞うベイパーウエア(発表はされたものの発売はいつになるか分からないソフト)が、無傷で目的地にたどり着いたと言えよう。

 ベゾスCEOは無人機による配達構想が実現する時期については明示していない(この構想は米国の規制や、技術的・経済的問題を克服する必要がある)が、1日にCBS番組の「60ミニッツ」で無人機開発について明らかにしたことは、アマゾンにとって3つの重要な広報活動の役割を担っていた。

まず第1に、年末商戦が始まったこの時期に、誰もがアマゾンとその年会費制の「プライム」サービスについて話題にしている(コラムニストの私でさえもだ)。さらに、投資家はアマゾンの投資計画を垣間見ることになり、近い時期に大きな利益を稼ぐ計画について予測することができる。それに加え、ハイテク業界で最も大胆な構想を描く人物としてのベゾス氏のイメージが定着した。「合法的でない」とか「衝動的だ」とか、「何だかばかげている」といったイメージがあっても、「あなたが注文した商品の優れた配達方法を検討することを決して諦めない人物」というイメージだ。

 ベゾス氏が無人機開発を推進していることは大歓迎だ。無人機は言われのない非難を受けている。監視や軍国主義と関連付けられ、技術をめぐる最も理にかなった議論は、空をすぐにでもロボットに奪われるとの懸念に乗っ取られている格好だ。

 われわれは、周辺の世界を改善する非常に有望な見通しを考慮せず、無人機がもたらす最悪の可能性を心配しすぎている。無人機が注文の石鹸を届けに裏庭に飛んでくるずっと前から、新興国で無人機の一団が薬を届けたり、災害後の救援活動に一役買ったり、食物を栽培する方法を改善するため作物を監視したりする様子が見受けられるかもしれない。

 無人機輸送システムを製造するシリコンバレーの小規模な新興企業マターネットの創業者の1人であるアンドレアス・ラプトポウロス氏は、無人の輸送システムは道路の少ない新興諸国での開発に役立つと主張する。重要な物資の輸送にとって、小型の無人機には車両よりも明白な利点がいくつかある。速いスピード、高いエネルギー効率、そして最も重要ことに、大規模なインフラ投資が必要ないことなどだ。

 ラプトポウロス氏はさらに、世界では多くの人々が道路で到達できるとは限らない場所に住んでいる、と指摘する。サハラ以南のアフリカ地域などでは、道路建設に要する時間や費用をかけたり、環境破壊を生じたりすることなく、無人機が薬や緊急援助に必要な品々を届けられるかもしれない。そういう点では、無人機は携帯電話に似ている。携帯電話によって、銅線を敷くコストがかからずに、世界中で通話が可能になった。

倉庫から客の自宅に無人機を飛ばすというアマゾンの計画と異なり、長距離の輸送「網」を構築するというマターネットの構想では、無人機はある国、あるいは、ある大陸の2点間で物資を移動することが可能になる。マターネットのヒントになったのはインターネットだ。ウェブブラウザーにアマゾン・ドット・コムを表示すると、数十の中継ルーターを通してアマゾンのサーバーから最終的にはユーザーのパソコンにデータが送られる。マターネットはこうしたルーターのような役割をする無人機の「地上局」を新興国に張り巡らせる構想を描いている。

 エアウェアのジョナサン・ドーニーCEOは、米国や先進諸国の多くで、無人機の最も有望な利用は農業分野になるとの見方を示している。同社は商業用無人機向けのオートパイロット・システムを開発する新興企業。同氏は「作物の精度の高い画像を頻繁に提供するための無人機使用には、数十億ドル規模の巨大なビジネス機会が存在する」と指摘する。それでも同氏の情熱は米国の規制によって制約を受けている。国民の懸念を一因に米連邦航空局(FAA)は商業用無人機の使用に厳しい制限を設けている。

 しかし、アマゾンのおかげで、こうした状況は変化するだろう。たとえそれが巧妙なトリックだったとしても、筆者はベゾス氏の今回の計画発表で、空飛ぶロボット鳥のコストと利益をめぐる一層理にかなった議論が促進されることを期待している。


ベゾス氏のパラノイアはアマゾン最大の武器

 ちょっと恐ろしいことを想像してもらいたい。あなたは米オンライン通販大手アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)で、たった今、自らの小売り帝国の様子を確認し終えたところだとしよう。気分はいかがだろうか。自信に満ちあふれているだろうか。それとも、今にもライバルが門から侵入しようとしているというパラノイア、つまり抜きがたい強迫観念にかられているだろうか。

 私はあなたがパラノイアにかられている方に賭けたい。実のところ、そういったパラノイアが過去数年間アマゾンで行われてきたフレンジー(強迫的)な業容拡大を説明すると私はにらんでいる。日曜配達を始める新たな取り組みから、食料品販売への参入、タブレット型端末「キンドル・ファイア」の対面による技術サポートの提供に至るまで各種の業容拡大だ。

 ベゾス氏が恐れるものがあるとすれば、それは何だろう。非永続性、つまり移ろいやすさだ。同氏は小売販売業という業界に属すが、それはあらゆるイノベーションがすぐに詳細に分析され、模倣される業界であり、(同氏が一部貢献しているのだが)マージン(利益率)が常にゼロに向かっている業界である。このほか、顧客が気まぐれや思いつきに流されやすい業界でもある。インターネット上で商売していることが、アマゾンにかなりの優位性を与えている。しかし、それには深い犠牲が伴う。つまり、顧客の頭に同社のビジネスの記憶がほとんど残らないのだ。

 それ故に、フレンジーになる。アマゾンの戦いは、世界規模の商取引の仕組みに自らを埋め込み、アマゾンを顧客の買い物慣行に不可欠なものにすることだ。しかも、ライバルが同社の計画に気付く前にそうすることを狙っている。

日曜配達プランが同社のM.O.(modus operandi=やり方、仕事の流儀)を説明する。このプランは、利用できる全ての資源を投入して、壮大な買い物プラットフォームを構築することを必要とする。そのプラットフォームは現代の商取引における主な機能を新たにつなぐ。サーバーから、配達、顧客サービス、マーケティングに至るまで、すべてをつなぐのだ。同社は6億ドル(約600億円)で中央情報局(CIA)のデータを保管する契約を結んだが、このような最近の動きをみてみると、アマゾンを買い物サイトだと考えるより、世界規模のインフラ企業だと考える方が分かりやすい。百貨店大手のメーシーズよりデンマークの海運大手マースクに近いのだ。

 このプラットフォームを通じ、アマゾンは顧客の全ての買い物において不可欠かつ不可避の存在になることを望んでいる。それは、他社が販売する商品についてもそうだ。実現すれば、同社は恐らく大きなカネを実際に稼ぎ出すだろう。

 日曜に配送するというアマゾンと米郵政公社との取り決めは、このプランのごく小さな部分に過ぎない。だが、それは壮大な戦略の典型例だ。アマゾンはここ2年間、業務を急速に拡大して商品をより早く届けられるようにしてきた。過去には、大半の顧客から州の売上税を徴収するのを避けようと、同社は費用の比較的かからない州に少数の大きな倉庫を設け、そこから残りの地域に商品を配達していた。

 その後、ベゾス氏は戦略を変えた。州と一時的な減税で合意したのに伴い、同氏は売上税への反対を取り下げ、大都市に近い場所など、あらゆる場所に倉庫を建て始めた。商品を顧客の近くに持ってくることで配送費を削減し、売上税による価格上昇分を相殺した。新設の倉庫はよりスピーディーな配達に役立っており、一部の都市では即日配送を可能にした。

 日曜配達は、同社が追加費用なしで提供するもので、同社のこうした取り組みを押し進め、アマゾンの信奉者たちが思わず友人に伝えたくなるような喜びを感じる公算が大きい。この喜びが日曜配達プランのカギだ。ライバルを大きくしのぐ資源を投入することで、同社はわれわれを常に驚かせるようなレベルのサービスを提供できる。こうなると競合他社は競争のため同じだけの資源を投入せざるをえない。

 いい例がある。私はつい最近、大き過ぎたためにアマゾンのサイトで買った13ドルのスウェットのパンツを返品しようとした。すると、驚くべきメッセージが表示された。「お客様はお得意様であるため、返品していただかなくても返金いたします」というのだ。言い換えると、私の顧客としての価値と、返品で同社にかかる配送費が商品自体の価格を上回る確率が高いことを考慮し、アマゾンは損失を受け入れるということだ。

 郵政公社との取り決めはまた、アマゾンが賢明な手法で消費者向け配送業界を「コモディティ化」(競合商品・サービスの差がなくなり価格競争が激化すること)しようとしていることを浮き彫りにする。低迷に悩む郵政公社の業績回復の一助となることで、アマゾンは配送大手のフェデックスやユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)との競争状態を保つ。もし日曜配送が他の小売業者の導入を促すほど人気だと分かれば、こういった民間の配送大手もサービスの提供を迫られる可能性がある。

 しかし、これはまだ最初の一手に過ぎない。アマゾンのより大きな目標は、これらの配送業者を同社独自の買い物プラットフォームに吸収し、顧客に商品を送りたい時に企業が思いつくブランドをUPSやフェデックスではなく、アマゾンにすることだ。買い手は気づかないかもしれないが、アマゾン・ドット・コムにある商品の多くは、アマゾン自身が販売しているのではない。それらの商品は同社と契約した他社によって販売されている。自らの商品の販売、保管、梱包(こんぽう)、それに配送を同社に委託する契約だ。つまり、比較的小規模な小売業者は、配送業者と個別に契約を結ぶ代わりに、同社と契約しているだけなのだ。

 一部の推測によると、アマゾンのこうしたサードパーティ(独立の商品・サービス提供者)商品の売上高は今や、自社販売商品の売上高を超えている。同社はこういったサード・パーティ商品の売り上げから手数料を徴収している。ここには同社が構築したインフラが転用されているから、この商品サービスの限界費用は小さい。このため、同社は自社商品の販売よりもサード・パーティの商品売り上げから多くの収益を上げている。

 これは同社に一連の良いネットワーク効果をもたらす。サード・パーティ商品が品ぞろえを拡充する。幅広い品ぞろえはより多くの顧客を同社サイトに引き込む。このため、同社が他のサード・パーティ業者にとって魅力的な企業になる。それと同時に、同社が支配するサード・パーティが増え、顧客が増え、売り上げも増える。それにつれて、UPSやフェデックスといった配送業者に対するアマゾンの影響力が大きくなり、インフラコストがさらに下がる。それがますます同社の売り上げを増やす。そのうちサード・パーティ商品の販売が同社の中核事業になると推測するのもおかしくないかもしれない。同社の自社商品の販売は、はるかに大きな企業体のほんの一部分でしかないという状況になるのだ。アマゾンは電子商取引そのものではなく、主に電子商取引のインフラを扱う企業となるのだ。

 これらは、どれも同社を悩ませている大きな問題を解決しない。つまり、この電子商取引インフラ事業の推進で結果的に利益を出せるようになるのか、なるならその金額はどの程度か、といった問題だ。アマゾンウォッチャーの間では、それに関する議論が盛んに行われているが、本当の答えはもちろん誰も知らない。しかしいずれにせよ、あなたがアマゾンで買い物するのが好きであれば、ベゾス氏のパラノイアから恩恵を受けていることになる。

By FARHAD MANJOO

無人機より現実的な物流ロボット

無人機構想が大々的に報道された米アマゾン・ドット・コムでは、ロボットをめぐる一層現実的で間近な取り組みが進んでいる。あるアナリストによると、アマゾンはこのロボットで費用を年間最大9億1600万ドル節減できる可能性がある。

 アマゾンが昨年買収した米キバ・システムズのロボットは在庫棚を作業員に届けるもので、作業員が倉庫内を歩いて商品を取りに行く必要がなくなる。ジャニー・キャピタル・マーケッツのアナリスト、ショーン・ミルン氏は調査メモで、このロボットを使えば一般的な注文を履行する場合の費用(通常3.50〜3.75ドル)を20〜40%削減できる可能性があると述べた。

 ミルン氏はこのメモで「これがアマゾンの巨大なフルフィルメントセンター網の作業効率を高める大きなチャンスになると、われわれは考えている」と述べた。

アマゾンは都市部に倉庫を増やすことで注文コストの圧縮と配達の迅速化に努めている。最近の取り組みの多くは配送自体に焦点を当てたものだが、キバのロボットは、いまだに人間と人為的ミスが1日を支配する倉庫の作業効率の改善に寄与しそうだ。

 アマゾンは2012年3月に7億7500万ドルでキバを買収したものの、キバの技術を倉庫に応用すると発表したのは最近だ。アマゾンは7-9月期(第3四半期)決算発表の際、3つの倉庫にキバのロボット1400台を配置していると明らかにした。

 ミルン氏はインタビューで「注意して聞いた方がいいような話題に入ると、アマゾンは非常に秘密主義になる」と話した。その上で、アマゾンがキバのロボットを本格的に使うようになれば倉庫の効率が向上し、年間4億5800万〜9億1600万ドルを節減できる可能性がある、との見方を示した。

 アマゾンの広報担当者はコメントを避けた。

 ミルン氏は、アマゾンの倉庫は作業員が通路を歩いて商品を取り出すことを想定した設計になっており、ロボットの組み入れは難題だろうと語った。アマゾンがロボット掃除機「ルンバ」の大型・オレンジ版のような見かけのこのロボットを幅広く配置するには数年かかる可能性がある。

 ミルン氏によると、それより期待できそうなのはこのロボットを他社に販売することだ。アマゾンが買収する前のキバは、ロボット一式を約200万ドル、大型のシステムは最高2000万ドルで販売していた。



アマゾンが狙う「クラウド世界王者」の座

米国時間2013年11月13日からラスベガスで開催されたアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のイベント「Re:Invent」。ここで発表された内容を中心に、アマゾンがエンタープライズ市場でどんなポジションを狙っているのか、考えていこう。

アマゾンといえば、日本でもおなじみのオンライン書店だ。現在は書店だけでなく、電化製品、食品、文房具、衣類など、日常使うものを数多く取りそろえるデパートのような存在となっている。そして、これは米国の人に話しても驚かれるのだが、オーダーがその日に届く地域もあり、独自進化を遂げている。

しかし、アマゾンにはこれとはまったく別の進化を続けている部門がある。それが、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だ。AWSはクラウドサービスに属するが、一言でいえば従量課金のサーバー環境だ。AWSは今年で7年目となるが、このサービスの登場によって、シリコンバレーのスタートアップの方法論がまったく変わってしまった。

インターネット上でサービスを行ったり、社内で管理するシステムを作るときには、サーバーが必要になる。このサーバーを自社で買う場合、まずここでコストがかかるうえ、24時間365日動き続けるように保守管理をする必要がある。しかも、もしサービスが成長してきた際には、サーバーを増強していかなければならないが、急激な成長をした場合、そのスピードが追いつかず、サービスがダウンしてしまうことになる。

AWSは、上に述べた不安を一気に解消してくれるサービスとして、スタートアップから絶大な支持を集めた。インスタグラム、ドロップボックス、フォースクエア、タンブラー、ピンタレスト、エアビーアンドビーなどの急成長した企業は、AWSなしではありえなかったといってもいいだろう。

AWSで重視しているポイントは、以下の5つだ。

1. Performance:処理能力

2. Security:セキュリティ

3. Reliability:信頼性・安定性

4. Cost:コストのメリット

5. Scale:スケーラビリティ

当初は特にコストとスケーラビリティが支持されてきたが、AWSは今回の基調講演で、処理能力とセキュリティを強調し、より多くの企業ユーザーに信頼されるサービスであることをアピールしている。同イベントは、新しい機能や知識を学んで持ち帰ってもらうことで、自社や顧客に行動を起こしてもらうことをゴールにしているという。

基調講演でAWSのシニアバイスプレジデント、アンディ・ジャシー氏は、競合他社(IBMを挙げていた)のプライベートクラウドに対するAWSの優位性を示すだけでなく、数多くの新しい機能を発表し、AWSに順次追加した。

その中で意外性を持って受け入れられたのは、デスクトップ仮想化環境「Amazon WorkSpaces」だ。デスクトップの仮想化は、実行環境を整えたり、より強力な処理能力を生かしたり、リソースを共有したりするうえで重要だが、多様なモバイルデバイスが利用される環境において、その重要性を高めている。

Amazon WorkSpacesは、iPhoneやiPad、アンドロイドなどのモバイルデバイスからも、アプリを介して利用することができる環境を提供する。同様の環境を整える際に障害となっていたのはコストだったが、35~70ドルの月額料金が設定され、「既存のソリューションの半額以下」と指摘していた。

同じく初日に披露された「Amazon AppStream」は、HDの画質のビデオやゲームをストリーミングし、ウェブやモバイルなどのデバイスに配信することができる仕組みだ。デバイス側の処理を行うのではなく、サーバー側でグラフィックスのレンダリングを行い、どんな環境に対しても高品質の映像体験を提供できる仕組みだ。

これら2つの技術はあまり関係なさそうに見えるが、AWSのクラウドとしての処理能力が向上したことを背景に、どんなデバイスからでもパワフルな処理性能を活用できるようにする環境を実現している点で共通している。このほかにも、これまで以上に強力な処理性能を提供するインスタンスを用意し、手元に高価なワークステーションを置くよりもパフォーマンスやコストの面で有利になる環境を提供している。

グラフィックス処理にAWSを利用する例として、映画「Star Trek Into Darkness」の3Dエフェクトを担当したAtomic Fictionのデモが披露され、グラフィックスのレンダリングをAWSで行い、1000台分のサーバの処理能力を1時間利用して仕上げることができたと説明した。

新しいクラウド活用の方法を、次々に提案するAWSは、テクノロジースタートアップ以外の業種からも、「使わない理由がない」という声が上がりそうだが、まさにAWSが狙っているのはそういう状況を作り出すことなのだ、とイベントに参加して明確に理解することができた。

AWSのCTO、ヴァーナー・ボーガス博士は、プレゼンテーションの中で、「Amazon Kinesis」を発表した。このサービスは、1秒間に大量のデータが作り出されるビッグデータを格納し、リアルタイムに分析をすることができるようになる機能だ。基調講演のデモでは、ツイートをリアルタイムに取得してトレンドとなるキーワードを抽出するというデモを行っていた。

WorkSpaces、AppStream、Kinesisは、まったく異なる機能のように見えるが、インターネットの基幹部分を担うインフラの「汎用化」を推し進めていると見ている。

これまで大規模なユーザー数を裁いたり、特定の役割を作り出すサーバーやネットワークなどのインフラ群を構築することで、他社との競争を優位に運んでいた企業から、インフラ構築のノウハウの優位性を完全に奪い去ることを意味する。今回の発表は、その領域を着実に押し広げており、たとえばAppStreamはゲーム企業のプラットホーム環境を持たないスタートアップが、巨大なゲーム企業と対峙できるようになりうるのだ。

これまでAWSがイノベーションを下支えしてきた大きな要因が拡張されていく。インフラ面での汎用化と低コスト化を次々に推し進めるAWSは、ますます「使わない理由がない」という環境を作り出しているのだ。

ビジネスを始めようとする人は、アイデアやビジネスモデルに注力すればいいし、エンジニアはコードに振り向ける時間をより増やすことができる。結果として、初期から成長過程に至るまでを、設備投資面のコストや実現可能性に左右されずに、サービスを作って提供することができるようになるのだ。

おなじみのネット企業だけでなく、東京証券取引所やNASDAQといった株式市場、NASAや米国証券取引委員会といった公共セクターがAWSを活用している姿を見せた。自前のサーバーを運用している企業にとっても、バックアップ目的から移行まで、AWSの活用の幅も広げている。

もちろん、AWSのサービスや機能にアイデアを縛られるべきではない。しかし大抵の場合、アイデアを実現したり、本格的に大規模な運用をするにもAWSがぴったりであり、それはスタートアップの起業家も、大企業の中でも同じことだ。既存の概念や枠組みを超えて、クラウドをうまく活用する前提で物事を考えられるかどうかは、ひとつの重要なスキルといえるだろう。



 米アマゾン、クラウドでパソコンソフト遠隔利用OK 

インターネット小売り最大手の米アマゾン・ドット・コムは13日、ソフトウエアやIT(情報技術)サービスをネットワーク経由で提供するクラウドコンピューティング事業で新サービスを発表した。高機能なゲームを配信したり、パソコンのソフトを遠隔利用したりするサービスを追加し、ライバル企業との差を広げる。

 米ラスベガスで13日開いた「アマゾンウェブサービス」の利用者・開発者向け会議で発表した。3次元(3D)映像を活用したゲームなどデータ量の多いアプリ(応用ソフト)の配信に使う「アップストリーム」に加えて、パソコンのソフトを遠隔利用する仮想デスクトップと呼ぶ技術を安価に使える「ワークスペース」を近く始める。

 アップストリームは画像処理など強力なコンピューターを必要とする作業をアマゾンが代行する仕組み。スマートフォン(スマホ)など端末の能力が低くても、高機能なアプリを使える。仮想デスクトップはソフトをデータセンターに保存し、複数の端末を利用する際の利便性や安全性を高められる。同サービスは「競合企業の半値で提供する」(幹部)としている。

 アマゾンは2006年、業界に先駆けてクラウドサービスの提供を始めた。価格の安さや使い勝手の良さが支持を受け、利用企業は数十万社まで増えた。当初はベンチャー・中小企業の利用が多かったが大企業や官公庁にも浸透しており、こうした企業からの要望が多かった仮想デスクトップなどを追加して事業を一段と拡大する。

 同社はクラウド事業の業績を公表していないが、13年12月期の売上高は40億ドル規模(約4000億円)に達するとの見方もある。全社の売上高に占める比率は5%程度にとどまる一方、伸び率は主力のネット小売りを上回っている。ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は「将来は小売りを上回る規模に育つ可能性がある」としている。

 クラウドの利用により企業はIT機器の購入・運用が不要になるため関連経費を抑制できるほか、仕事の繁閑に合わせて情報システムの処理能力を柔軟に増減できる。マイクロソフトやグーグルといった米IT大手も力を入れている。米IBMは6月、この分野で20億ドル規模の企業買収を決めており、大手間の競争が激しい。


IT業界で最も恐れられている男 Amazonのジェフ・ベゾス

 Appleのスティーブ・ジョブズが亡き今、IT業界で一番注目すべき人物はAmazon.comのCEO、ジェフ・ベゾスだと思う。

 実際、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストのSam Gerstenzang氏は、自身のブログで「Who’s afraid of Jeff Bezos?(ジェフ・ベゾスを恐れているのはだれか)」という題の記事の中で、「答え:すべての人」と語っている。Microsoftのビル・ゲイツ氏は経営の一線からは既に退いている。ジョブズ氏は亡くなった。Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏は、Facebook運営で手一杯のようで、ほかの領域を侵食するつもりはなさそう。唯一ベゾス氏が、シリコンバレーのすべての起業家に恐れられている存在だ、というわけだ。

 事実、Amazonはもはや仮想書店ではない。作家と直接契約を結んでプロモーションにも乗り出している。出版社の中抜きを進めているわけだ。

 本以外にも、何でも売るようになってきた。世界で一番注目を集める小売業者だ。

 そしてハードメーカーでもある。電子書籍リーダーではナンバーワンブランドだし、低価格タブレットメーカーとしても侮れない。長期的に見れば電子書籍や映画などのコンテンツ販売で損失分を回収できるわけだから、かなりの安値でタブレットを販売できる。ハード専業メーカーには真似できないビジネスモデルだ。

 クラウド事業者としてもAmazon Web Servicesで飛ぶ鳥を落とす勢い。Gerstenzang氏によると、Google、Microsoft、Rackspace、Herokuなどのクラウド事業は、Amazonに追いつけない状態だという。

 また最近では、モバイルアプリの分析ソフトの提供にも力を入れているようだ。

 C(消費者)向けには、ありとあらゆる製品を販売するECサイトを運営し、その運営のために必要なサーバーやハード機器、ソフトにも全力を投入。そしてそれをこんどはB(ビジネス)向けに提供する。CとBの両方の領域で、圧倒的な存在感を示し始めた。Gerstenzang氏の言うように、確かにIT業界で今最も恐れられているのが、Amazonであり、CEOのジェフ・ベゾス氏なのかもしれない。

 そのベゾス氏の半生が「The Everything Store: Jeff Bezos and the Age of Amazon」という本になった。まだ邦訳はされていないが、その中で気になった部分を何回かに分けて取り上げていきたい。

★ベゾス氏は小学生のころからドライな超秀才だった
 ベゾス氏は1964年1月生まれの49歳。テキサス州ヒューストンの小学校のときに、成績優秀者だけを集めて英才教育を受けさせる特別プログラムに参加している。そのときの記録が残っているのだが、そのときからベゾス氏は好戦的で、読んだ本の冊数を同じプログラムの学友と競っていたようだ。また科学の工作コンテストにも積極的に参加していたという。

 一方で、6年生を受け持つ先生たちに対するアンケート調査をクラスメートたちに行って、それを集計し、先生を能力順にランク付けするというようなこともやっていたという。人気順ではなく、あくまでも能力順というランク付けなのだそうがが、能力で教師をランク付けするというドライな仕組みを小学6年生が思いついたことに驚く。頭がいいことは間違いないのだろうが、ベゾス氏が情緒よりも理論に傾いていることを示すエピソードだ。

★社員やライバルには厳しい性格
 ベゾス氏のインタビュー動画を幾つか見たことがあるが、話し振りはにこやかで、笑いっぷりは豪快。だれにでも好かれる明るい性格のイメージを受けた。

 ところがこの本によると、同氏の下で働くことはかなり大変なようだ。Appleのスティーブ・ジョブズ氏も社員には厳しく本社の社内にはピリピリした空気が流れていたと言われるが、Amazonのベゾス氏も細かなところにまで口を出してくる上司であるようだ。

 本の中では、コールセンターの対応に不満を持ったベゾス氏が、重役会議で担当重役を吊し上げる様子が描かれている。

 また休みも週末も関係なく、思いつけば会議を招集してくる。その結果、家族を大事に思う幹部たちが社を去っていったという。

 社員を交えた質疑応答のイベントで、一人の女性社員がベゾス氏に対し職場環境に関して質問。「Amazonがよりよいワーク・ライフ・バランスをいつ実現するつもりか」と尋ねた。ベゾス氏はこの質問を好意的には受け取らなかったようで「われわれは仕事をするためにここにいる。それが最重要事項だ。それがAmazonのDNAだ。もし君が君のすべてを仕事に投入できないというのなら、この職場は君に向いていないのかもしれない」と厳しい口調で答えたという。

 また相当の倹約家で、重役でさえ飛行機はエコノミークラス。また社員全員にバスの定期を配ろうという提案を却下したことがある。バス通勤にすると、バスの最終便に間に合うよう仕事を切り上げる社員が増える。ベゾス氏は、社員に対し、バスの時間を気にせずに勤務してもらいたいと考えているようだ。

 ベゾス氏は本社のあるシアトルの経済界でのつきあいはほとんどなく、カンファレンスで講演することもほとんどない。取材に応えることもまれだという。

 対等な立場での協業も難しいそうだ。オークション最大手のeBayとの協業の話が出たときに、eBayに出資したベンチャーキャピタリストがベゾス氏の評判を聞いて回ったところ、ベゾス氏との対等な立場の協業は困難という意見が圧倒的に多かったという。協業ではなく支配下に入る形しかないという。

 さて、この本を読んで1つ意外だったのが、ワンクリック特許に対して、ベゾス氏自身も問題があると考えていることだった。

 ワンクリック特許とは、クレジットカード番号や住所をEC業者側が記録しておいて、次回に購入する際にはワンクリックで購入できるAmazonのワンクリック機能に対して認められた特許。だれもが思いつくような単純なアイデアだったので、この特許が認められたときには、ネット業界でちょっとした騒動になった。こんな基本的な機能にまで特許を認めてしまうと、ネットの利便性が損なわれることになるという意見が支配的だった。

 この本によると、ベゾス氏自身も、この特許が認められたことへの問題意識は持っていたということ。同氏自身も、特許制度の見直しが必要だという考えを持っていたようだ。ただそうはいっても同氏にとってビジネスは別問題。競合のバーンズ・アンド・ノーブルを提訴して、ワンクリックで購入できないようにさせたほか、Appleからはライセンス料を受け取る契約を結んだ。小学生のときにみられた、ドライな性格がこのようなところにも見受けられる。

★成功の秘訣は、顧客中心、長期視点、創造
 ベゾス氏は、Amazon成功の秘訣を次のように語っている。

 「われわれのどこがユニークか。それは次の3つだと思う。われわれは本当の意味において顧客中心主義で、長期視点で、新しいものを積極的に作っていく。ほとんどの会社は、この3点を持ってはいない。ほとんどの会社は、顧客よりも競合他社を見ている。また2,3年で結果がでない場合は諦めて次のことをする。それに新しいことに挑戦するよりも、2番手を目指す。2番手のほうが安全だからだ。これがアマゾンの本当の強さの秘密だ。この3つの要素を持っている企業は、非常に少ない」。

 確かに四半期ごとの決算に一喜一憂する企業が多い中で、Amazonは徹底的な長期視点に立った経営を行っている。

 私は一貫して「インターネットが世界を変える」と主張してきた一人なのだが、2000年代の半ばぐらいまでは反対意見を述べる人も多かった。ネットの可能性を読めず波に乗り遅れた人、ネットによって既得権益を奪われる人たちが中心だったと思う。

 特に2000年に最初のネットバブルが崩壊したときに、「Amazonは終わった。ネット企業はイカサマだった」という主張が横行した。日本でも「Amazonが終わった」というような主旨の本も出版されたのを記憶している。

 「Everything Store」によると、ベゾス自身もそうとう厳しい意見を受けたようだ。資金集めに投資家を回ったときも非常に多くの投資家から「お前たちはいずれバーンズ・アンド・ノーブル(書店最大手)に潰されることになる」と指摘されたのだという。

 当時、テクノロジー系の調査会社として力を持っていたForrester ResearchのCEOは「Amazonは終わった」という内容のレポートを出している。

 ベゾス氏がハーバード大学のビジネス大学院に講師として呼ばれた際には、大学院生たちが散々議論したあとの結論は、「Amazonは生き残れない」というものだった。ある学生はベゾス氏に対し「あなたはいい人のようだから、誤解しないで聞いてほしいんだが、すぐにでもバーンズ・アンド・ノーブルに身売りしたほうがいいよ」と語ったという。

 こうした指摘に対しベゾス氏は「そうかもしれない」と謙虚に可能性を認めたあと、「でも1つのやり方に慣れた大手企業が、新しい販売チャンネルに素早く対応するのは非常に困難だと思うよ」と語ったという。

 このほかにも周囲や社会全体がAmazonに悲観的になったときのエピソードが、この本の中に多く含まれるが、ベゾス氏は常に長期的視点に立ち、まったくブレることがなかったようだ。

 インターネットやAmazonの可能性はこんなものじゃない。まだまだ成長する。Amazonの株価の高値を危惧する人がいるが、Amazonの可能性からいうと株価は低過ぎる。ベゾス氏はそう考えているようだ。

 2000年直前のネットバブルの最中であっても「まだ評価が低過ぎる。世間はアマゾンの可能性を理解していない」と語っていたという。

 ネットバブルが崩壊し、株価が低迷。ストック・オプションの権利が紙くず同然になり、社内の士気が急速に低下、幹部たちの間でも自信を喪失する者が増えた。そんなときでもベゾス氏はブレなかったという。シニア・バイス・プレジデントのMark Britto氏は当時を振り返ってこう語っている。「我々(幹部)はみんな、これからどうしたらいいんだろうと頭を抱え、頭に火がついたような感じで廊下を行ったり来たりしていたんだ。でもジェフ(ベゾス氏)は違った。台風の目の中にあって、ここまで平静でいられる人は見たことがなかった。彼の体の中の血管には氷水が流れているのではないかと思った」と語っている。

 直近の決算発表を見ても、売上高は伸びているのに利益が低い。儲けをどんどん投資に向けているからだ。今はまだ仕込みの段階。成功の果実を収穫するときではない。ベゾス氏はそう考えているのだろう。限度の見えない野心。非常に怖い経営者だ。

★今後の戦略の可能性
 この本のタイトル通り、Amazonは、あらゆる商品を取り扱うeverythingストアを目指している。本を取り扱ったのは、たまたま。いろいろな商品カテゴリーを調査した結果、当時は書籍を取り扱うのが最も成功する確率が高いと思われたからだ。これからもどんどん取り扱い商品の種類を増やしていくつもりだろう。

 それぐらいは予測できたが、少々意外だったのがリアル店舗にも関心を持っているということ。

 創業間もないころに、Amazonで販売している本を、同じくシアトルに本拠地があるカフェチェーン大手スターバックスのレジの横に陳列させるため、スターバックスと提携交渉したことがある。スターバックス側がAmazonの株式の10%を要求したため提携には至らなかったが、Amazonの小売部門の責任者David Risher氏は、「機会があれば(リアル店舗の展開を)いつでも前向きに検討したい」と語っている。

 つまりeverything storeが意味するところは、ECだけではない。リアルな店舗での販売も含め、販売できるものはすべて販売するという巨大な仕組みを作りあげるというのが、ベゾス氏の野心なわけだ。

 できるだけ多くの品揃えで、できるだけ安く売り、できるだけ早く配達する。そのためのデバイス、ECサイト、バックエンドシステム、流通センターをすべて1社で押さえる。規模の経済が価値を創造する売買の領域において、徹底的に規模の経済を追求する。技術に強い大手が圧倒的に有利な領域で、ある意味、分かりやすい戦略だ。

 Amazonは奇をてらうこともなく、今後もこの戦略を押し進めてくるだろう。世界一の巨大ストアになるまで。

 さてこうしたプラットフォーム競争で勝ち残るのは、恐らく1社。もしくは、もう1社。1社にすべてを牛耳られるのは嫌だという消費者心理が、第2位の併存を可能にする。

 それ以外の小売業者は、品揃え、価格、配達の早さで競争する限り、勝ち残れないだろう。その3つの価値以外の新しい価値を提供しなければならなくなる。例えばサイト上でのウインドウショッピングを楽しめたり、アフターサービスが充実しているというような価値だ。

 ECサイトだけではない。リアルなショップもそうだ。巨大ショッピングプラットフォームの存在が、小売業のあり方を根本から変えようとしているわけだ。




アマゾンの驚くべき経営手法が分かるたった1枚のグラフ

ここに驚くべき、1枚のグラフがある。ここには、ジェフ・ベゾスの驚くべきヴィジョナリー性と、Amazonという企業の真のスゴさが詰まっている。それは、彼らの売上げ高と純損益を記した1枚のグラフだ。

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この意味はシンプルだ。彼らは2009年以降、驚くべき急成長を遂げてきたにもかかわらず、その純損益はほとんど変化すること無く、収益を投資にまわしているのだ。このグラフは、彼らが毎年のように赤字を発表しているにもかかわらず、そのことに投資家が拍手喝采を送っているという奇妙な(しかし、全く持って正当な)理由を示している。

これは従来の常識では考えられないことだ。アマゾンの第3四半期決算は、純損益は4100万ドルの損失となり前年同期を下回ったものの、相変わらずの赤字を計上した。一方で、売上高は171億ドルに達して、前年同期の138億ドルから増加した上に、アナリスト予想平均の168億ドルを大きく上回った。市場からの評価も高く、常に安定した期待を集めている。

希代のビジョナリー、ジェフ・ベゾス

彼らの素晴らしさについては、我々は度々言及してきたが、 このグラフはそれ以上のことを物語っている。同社は、ネットの本屋さんを脱して、ネットのウォルマートとなり、そして、IBMを倒した後は、Paypalとも戦おうとしている。しかし、彼らが書籍ばかりではなく、クラウドや決済にまで事業領域を拡大しているという事実のみに注目すると、ジェフ・ベゾスという男の本当のスゴさを見誤ることになるだろう。

アマゾン、というよりもベゾスは本当に厳しい男として名を馳せている。彼はシリコンバレーで流行の手厚い福祉厚生に手を出さない。彼らは、Googleの20%ルールや、facebookにおけるハッカソンなどに代表される、「自由で創造的な社内文化」という企業ブランディングとは無縁だ。

ベゾスのキャラクターはスティーブ・ジョブズの死後までそれほど注目されることは無かったが、独裁制(あるいは、リーダーシップ)に関してはジョブズに通ずるものがあり、そのことがプラスに働いていない局面も少なくない。そして、彼の会社がやっていることは、一見すると華やかなコンシューマー向け製品の開発や、世界一の検索エンジン、そしてSNSといったものに比べて、地味な印象さえ受けるかもしれない。

にもかかわらず、彼は現在、最も野心的な起業家の一人だと見なされている。彼が、Googleやfacebookのような夢の空間を提供する意志がないことで、多くのエンジニアがそれらの会社の福利厚生や高額な報酬につられたと噂されている。しかし、ベゾスは常にたった1つのことを約束するだけだった。それは、「アマゾンの顧客と株主の利益」だ。それも、長期的な。

市場の信頼

このグラフは、そのことを思い出させるには十分だろう。アマゾンが赤字を計上することは、もはや市場にとっては織り込み済みである。なんといってもベゾスは、創業当時から、普通の精神を持った人間ならば真っ青になって逃げ出すような赤字をボロボロと垂れ流しながらも、平然と上場までこぎ着けたパワープレーヤーなのだから。

彼は、社内の創造性を高めてイノベーションを起こそうとはしない。むしろ彼は従業員を徹底的に使い倒すことで、彼の頭の中にある世界を実現するタイプの経営者だ。(そして、そのことに批判も多い。アマゾンの倉庫や流通における労働環境はしばしば問題になる)彼のストイックな経営スタイル、そして、徹底的に価格やサービスそのもので勝負をする姿勢こそが、盤石な帝国をつくり出している。

そして、市場は彼のスタイルを明らかに信頼しているのだ。


アマゾンがクラウドファンディングを開始!


「Amazon Birthday Gift」 Facebookにログイン。 
そして、誕生日間近の友人に対して、バースデーメッセージを記入します。
自分で最初のプレゼント金額を入れて、ギフト型クラウドファンディングをスタート。 
共通の友人たちを選択し、クラウドファンディングの招待を飛ばします。 
それぞれが選べる金額は1ドル、5ドル、10ドル、25ドルが基本。 

皆でまとめた総額をAmazonギフトカードでプレゼント。 Facebookタイムラインへ表示され、サプライズプレゼントとなります。

        



◇Amazonの次なる1手は、「オープンな商品開発プラットフォーム」
 

電子書籍やKindle端末、クラウドソーシングやクラウドファンディングと矢継ぎ早に手を打ってくるAmazon。

Amazonの次なる巨大な一手は「オープンな製品開発プラットフォーム」。 
つまり、近未来のAmazon Birthday Giftは、Amazonで購入できる既存の商品だけではなく、デジタルファブリケーション経由で作られたオンリーワンの商品になっていくだろうということです。 

ソーシャル・メディアでつながった友人・知人皆が、Amazonのプラットフォーム上で「オンリーワンのネックレス」をああでもない、こうでもないと言いながらデザインして、誕生日プレゼントに送るという革命です。 

その序章が今回のAmazon Birthday Giftだと思うのです。 
ソーシャルメディア革命は、クラウドファンディング革命とクラウドソーシング革命を生み出しました。

そしてクラウドファンディング革命とクラウドソーシング革命は、デジタルファブリケーションと結びつき「オープンな製品開発プラットフォーム」を生み出すことでしょう。 

ここでは、情報と物が融合を果たします。
そして、新しいビジネスモデルの登場というよりも、「次世代のインフラ」としての威容を示していくのです。

 
◇Amazon、仕入先の倉庫から直接発送

Amazonは、価格に関して他の小売業者に対して強力な優位性を保っているが、Wall Street Journalの最新記事に理由の一端が表れている。AmazonはライバルのBest BuyやWalmartのように高価で巨大な小売店舗を維持しなくてよいだけでなく、仕入先自身の倉庫内からビジネスを行う実験をしている。これは一種の共生小売生物といえる。

WSJは今週の記事でこれをAmazonによる「野心的実験」と呼び、巨大なProcter & Gamble施設内の同社社員が配置された一区画を、どうAmazonが維持しているかを詳しく解説している。P&Gの労働者はパレットにAmazon顧客向け商品を積み込み、Amazonの〈倉庫内倉庫〉に運ぶと、オンライン販売の巨人が梱包して直接顧客に発送する。

サプライチェーン・マネジメントは、Apple、Walmartをはじめ成功している近代的消費者製品メーカーの殆どを特徴づけている強みだ。Appleは、ここ数年間サプライチェーンの整備に著しく成功し、殆ど自社施設に在庫を持たないジャストインタイム生産を実現して、組立て工場から消費者や小売店に直接配送している。Walmartは、サプライヤーから最低価格で仕入れる能力と、それらのパートナー向けの「カンバン」方式の在庫管理システムに関して、批判も賞賛もされてきた。

Amazonの新プログラムは “Vendor Flex” と呼ばれ、特に紙オムツや家庭用紙製品などの低価格多量販売商品におけるコスト削減が期待される。これらは、消費者に直接発送するには「嵩張りすぎて、安すぎる」と伝統的に考えられてきたと商品であるとWSJは伝えている。しかしAmazonは、この分野のビジネス拡大に力を入れており、経済的に意味のある成長を可能にする費用対効果への取り組みが大きな役割を果たしている。

このプログラムは主として保存の利く商品を対象としているようだが、将来にわたって利益が期待される運用モデルの野心的試みだ。現在AmazonFreshは、当初のシアトル以外の市場でも運用開始しており、さらなる拡大を目指している。次にAmazonがサプライパートナーと組む時、相手は大規模な工業型農場や食材メーカーか製パン会社なのかもしれない。