老後を支え死を看取る、地域包括ケアの互酬精神

保健・医療・福祉・介護サービスが大きく変化している。それは老後の生き方や死に方にも影響を与える。

2014年という年は、ある意味で象徴的な年といえよう。「団塊の世代」に属するすべての人々が65歳以上になる年なのだ。

 団塊の世代が通過してきた時代は、変化と葛藤の連続だった。集団就職、受験戦争、学生運動、カウンターカルチャー、バブル景気、失われた20年・・・。時に憧れ、時に危機感をあらわに感じさせる時代の羅針盤のような世代。それが、団塊の世代だ。

 今後10年間、団塊の世代は日本の社会にどのような変化をもたらすのだろうか。そして10年後の2024年には、600万人もの「団塊の世代」が75歳を超える。その時社会はどうなっているのだろうか。いずれにせよ、次の10年間に日本はどんどんケアシフトしていくだろう。

 積極果敢に自宅以外の場所で活動するアクティブな人も、アクティブではない人も、結局は、自分の居場所=住まいを中心とした「地域」が人生のベースキャンプ、つまり人生の基地ということとなる。人生の基地としての自分の居場所、住まい、住まい方をいかに形づくってゆくのかは、万人にとっての一大事なのだ。それが老後の人生に深く関わるとなれば、なおさらだろう。

日本人の平均余命は着実に伸びてきたが、健康寿命の伸び率は平均寿命の伸び率を下回っているのだ。つまり、「不健康な期間」は今後長くなる傾向にある。しかも、従来のアクティブシニア(健康で活動的なシニアたち)が多く出現してきた65~74歳の人口よりも、今後は75歳以上の人口が急増する。

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アクティブな状態を維持して、ある日突然死を迎えるという「ピンピンコロリ」という死に方を望む人は多い。だが、それを実現できる人はまれだ。多くの場合、障害や慢性疾患を抱えながら生きていかざるをえず、やがて死を迎えるということになる。

 そんな中で、近年は死に場所に対する関心も高まっている。多くの日本人は「できれば住み慣れた自宅の畳の上がいい」と思っているが、厚生労働省の人口動態統計を見ると、10年くらい前までは自宅で死亡する人が一貫して減り続け、逆に医療機関で死亡する人が増えていた。

ただし、ここ10年間は医療機関で死亡する人が頭打ちとなり、病院でもなく自宅でもない「その他の場所」で逝く人が増える傾向にある。

 実は、「その他の場所」で死亡する人が、今後、急速に増えるとみられている。厚生労働省の推計によると、老後の資産や支払い能力のある人々の看取りの受け皿として、有料老人ホーム(有老ホーム)やサービス付き高齢者専用住宅(サ高住)の利用が増えているためだ。2030年には、人が死ぬ場所として全体の3割近くを占めるようになると推計されている。これは、保健・医療・福祉・介護サービスが大きく変化していることの一端である。


社会の問題は、政府が「公助」を通して、市場が「自助」を通して、社会保険制度などが「共助」を通して問題解決していくとともに、多様な個人や組織が「互助」を通して問題を解決していくのが、地域包括ケアシステムであるとされる。

地域包括ケアシステムを通してケアされるのも、ケアしていくのも、ともに地域の人々である。ケアという営為には、奥深いところで相互作用と共創性の機微が働く。人は他者をケアすることによって自らをもケアしていくし、ケアする側、される側の間の境界線が曖昧となっていく。ケアという相互作用をやり取りしながら、ケアというサービスや互酬の精神が共創されていくのである。簡単にいえば、「お互い様」「持ちつ持たれつ」の関係だ。

 地域包括ケアシステムづくりには、ケアという人間ならではの行為が本質的に持つ価値共創性を、地域へ丹念に埋め込んでいくという側面がある。

 地域包括ケアシステムの構築は、ある意味、「静かな創造的破壊」のようなものである。なぜならば、従来は個別の言語や文化を持ち、分断されがちだった介護・リハビリテーション、医療・看護、保健・予防、福祉・生活支援、住まいと住まい方という5つの縦割り領域の境界を越境して、それぞれの関係者の共感を得て、結びつけ、プロセスをデザインして、ソリューションに仕立て上げ、進化させ、異分野融合的なサービスシステム・マネジメントを実現してゆくものだからだ。

地域包括ケアシステムの創発に必要な人材は、自助、互助、共助、公助が交わる小さな「助けの場」で、ケアの価値共創的な機微を地味ながらも小まめに奏でることができる「ご近所の助っ人さん」である。

彼ら彼女らは目立たない。派手さもない。腕まくりして人押しまくるというわけでもない。お願いされてやる。しかし、一度始めれば、だんだんと前向きに取り組むようにもなる。そして次第に活動そのものが楽しくなってくる。「地域の人々をケアすることによって自分たちもケアされる」という実感を静かに抱くようになり、いろいろな仲間と共感の輪が広がる。

 1人の力は弱くても、多数がつながれば強くなる。そして世代をまたがり、活動を継承することによって、健康や予防への意識がさらに浸透してゆく。そして緩やかで、静かで、目立たない取り組みが、めぐりめぐって地域の疾病予防や健康増進に役立っていくのだ。