◇「口」ストレッチで全身が健康になる

歯から健康は作られ、歯から健康は崩れる。
その口と歯の最重要ポイントが、唾液です。

唾液が歳とともに出なくなるのをご存じですか。
唾液が少なくなると口の中が汚れやすくなり、ひいては、歯から全身の健康が蝕まれていくのです。
怖いですねぇ……。
 
体の運動と違ってその場でできるし、疲れない、新しい健康法ーーそれが、「口ストレッチ」です。
 
すぼめる、ふくらます、舌を動かす、歯茎マッサージ、などいくつかの口のストレッチ&トレーニングで、唾液がどんどん出て、簡単に「噛む」「飲み込む」のエクササイズができる。
 
嚥下障害の予防にもなり、健康な歯を保つことによって、口元がしっかりして,年寄り臭くならない、「若く見える」口元を作り上げることもできる。
 
長生きと若さの秘訣は、「口ストレッチ」にあるのです!

141228

第1章 諸悪の根源は口の中の渇きだった

 ・あなたの唾液は足りていますか
 ・働き者の唾液
 ・ドライマウス急増中
 ・むし歯、歯周病の原因に
 ・口臭やメタボも引き起こす
 ・唾液が増えるとむし歯にならない
 ・唾液が増えれば口臭ともさようなら
 ・口ストレッチでドライマウスを治す


第2章 口から食べられない生活なんて

 ・初の都心型リハビリ専門病院へ
 ・食べ物で歯が隠れて見えない患者さん
 ・大勢の脳卒中の患者が押し寄せてきた
 ・麻痺は手足だけに起こるものではない
 ・物を食べるのは複雑な動き
 ・口が麻痺したら歯があっても物を噛めない
 ・28本すべてがむし歯の患者さん
 ・「8020」だけじゃ足りない
 ・舌に苔が生えている患者さん
 ・唾液の自浄作用が働かない患者さんたち
 ・胃瘻、全介助、応答なしの患者さんが応答した
 ・たった一口のゼリーがもたらした希望
 ・「プリンではダメですか?」
 ・胃瘻のメリット・デメリット
 ・「唾液が出ない」副作用で生活意欲も低下
 ・標準血圧のガイドラインは目に余る
 ・近代西洋医学だけでは足りない
 ・病気持ちでも「健康」です
 ・手術で命を取り留めたのに誤嚥で亡くなる
 ・リハビリがこれからのキーポイント
 ・口ストレッチ誕生
 ・口ストレッチが必要な人、年間10万人増


第3章 いつまでもおいしく食べるための「口ストレッッチ」大公開

 ・あなたの「口ストレッチ」必要度は何%
 ・なぜ腹筋、背筋を鍛えるの
 ・1日5分うつぶせ寝
 ・むせるのはよいこと
 ・手振り運動で全身リラックス
 ・全身を叩いて血の巡りをよくする
 ・これがザ・口ストレッチだ
 ・おまけの唾液腺刺激ストレッチ
 ・元気な老人は表情豊か
 ・表情筋七変化


第4章 あとは好きな物をお食べなさい

 ・「固い物を食べろ」は余計なおせっかい
 ・日本酒だけで生きる90歳
 ・「何も食べられません、とろ以外は」


 
    ”よく活き、よく老い、よく死ぬ” ための生活知共有サロン ☆★

 

歯科と言っても、矯正歯科や歯周病科、口腔外科など20近くの専門診療科があります。その中の一つに私の専門の摂食機能療法科があります。

 全国の歯科大病院で摂食機能療法科があるのは日大だけで、歴史も浅く、なじみの少ない診療科です。

 この道に入るきっかけは、30歳になったばかりの頃、リハビリテーション専門の病院に勤務することになったからです。当時、リハビリというとスポーツ選手のことを思い浮かべましたが、入院患者の7割は脳卒中患者でした。

 病院で初めて患者の口の中を診て驚きました。虫歯、歯槽のう漏はもちろんでしたが、食べ物が残ったままだったのです。その日の昼ご飯が何だったかがわかるような状況でした。

 口にまひがあると、患者は、自分でのみ込んだり吐き出したりすることができず、その状態が続くと虫歯が何本も一度にできてしまいます。

 歯磨きできないから虫歯が増えたと思われるかもしれませんが、(健康な人だと)3か月間、歯を磨かなくても、私の診た患者のように虫歯はできません。通常は、食べたり、話したりすることで虫歯を防ぐ作用が働くからです。

 それまで私は、口の中をきれいにし、歯を治せば何でも食べられるようになると思っていました。しかし、リハビリ病院での経験から、喉や口にまひがある場合、摂食・嚥下えんげリハビリテーション(摂食機能療法)が必要と思うようになりました。

 介護が必要なお年寄りの死因のトップは肺炎です。これは、口から食事をとらず、会話の機会も少ないため、口は雑菌の巣になり、これを吸い込むと、誤嚥ごえん性肺炎につながります。

 しかし、食べ物を口にするだけで雑菌を洗い流せます。これを「命のワンスプーン」と呼んでいます。歯磨きも大切ですが、口は「食べる」「話す」「表情を作る」「呼吸する」のすべてが備わって初めて機能します。

 こうした機能の強化には「口ストレッチ」が有効です。例えば、喉の上下動を担う筋肉は、あおむけになって、頭を上げて、爪先を10秒間見ることで鍛えることができます。

 唾液は健康の目安になります。口の中が唾液で潤っていれば、健康といってもよいぐらいです。口を潤すには、口ストレッチのほかに、心身がリラックス状態にあることと、口への心地よい刺激も大切です。

 私は、「健康とは何か」と聞かれると、「感じること」と答えます。食べておいしいと思える瞬間があることが、「健康で幸せ」ということだと思います。

 車椅子生活でも寝たきり生活になっても、人は幸せにも健康にもなれると思います。健康は数値で表せるものではありません。それぞれの主観次第で、健康に暮らすことができると信じています。

 

(2014年12月27日 読売新聞)