本当に心配になってきた国債利回りの低下

 日本の国債利回り低下が止まりません。昨日(12月22日)は残存年数が4年以下の国債利回りがマイナス0.02~0.04%、5年国債が0.03%、10年国債が0.33%、20年国債が1.09%、30年国債が1.30%となっています。
 日銀が2013年4月から「長期国債」を毎月7.5兆円程度買い入れる「異次元」量的緩和を継続し、さらに本年11月から買入れ額を毎月8~12兆円に大幅拡大して、その保有残高を年間80兆円も増加させる「もっと異次元になった」量的緩和としたからです。

 ここでいう「長期国債」とは短期国債以外の利付国債のことで、償還年限が2~40年の国債に変動利付国債や物価連動国債を加えたものですが、発行時から年限が経過して残存年数が短くなったものも含まれます。

 現在の日銀の保有国債は、白川・前総裁時代に資産買入等の基金で大量に取得した残存年数3年以下の国債が償還を迎えているため、月間8~12兆円(年間96兆円~144兆円)を買い入れないと保有残高が年間80兆円も増えません。

 またこの80兆円の中には1年未満の短期国債が含まれていませんが、日銀は短期国債も発行総額の3分の1を保有しており、その残高を維持するためには発行される短期国債の3分の1を買入れ続ける必要があります。

 今年度の当初予算では「長期国債」の月間発行額は、2年債が2.7兆円、5年債が2.7兆円、10年債が2.4兆円、20年債が1.2兆円、30年債が0.6~0.7兆円なので(40年債等は省略)、月間の発行額は9.6~9.7兆円となり、大雑把にいって日銀は市中で新規発行される「長期国債のほぼ全額」を買い入れている計算になります。

 ところが「長期国債」の発行総額(残高)は年間32兆円ほどしか増えないため(もちろん償還があるからです)、日銀はそこから80兆円の「長期国債」保有残高を増加させることになり、単純計算ですが民間保有の「長期国債」を年間50兆円ほど吸い上げることになります。

 消費増税実施が2017年4月まで延期されたため、今回は「景気条項」がなく大蔵省はその時点の日本経済がどうなっていようとも増税を強行するのですが、そうはいっても少なくとも増税実施までの2年3か月はこのペースを続けることになるはずです。

 日銀が量的緩和を続ける意味は、「長期国債」を強引に買入れ続けることにより日本の金利水準(とくに長期金利)を引き下げ、それにより貸し出しが増加して経済を回復させるためだと思われます。

 長期金利がこれ以上低下することによる貸出増加効果が全く無いことと、長期金利が必要以上に低下する「弊害」を、それぞれ全く理解していません。

 その「弊害」とは、金利体系(とくに長期金利)が低下しすぎて日本における投資収益水準全体の低下・投資意欲の減退・景気減速・それにデフレの加速などを引き起こしてしまうことです。2%の物価上昇目標実現のための量的緩和がデフレを加速します。

 当然に円安となり「輸入物価の高騰」を通じて、消費者の生活や中小企業の活動を損ない、さらなる景気減速を招きます。
 
 何よりも1000兆円をこえる公的債務をファイナンスしている国内資金が海外に流出してしまうため国内資金で公的債務を支えきれなくなり、冗談ではなく日本が財政破綻してしまいます。

 日本の財政破綻や国債暴落は、10年以上も前から評論家やマスコミが好んで喧噪していましたが、本誌は掲載開始以来、国債暴落も財政破綻も「絶対にない」といい続けてきました。

 たいへん皮肉なことに、日銀の異次元の買入れで評論家やマスコミが「安心」して財政破綻も国債暴落も喧噪しなくなっているなかで、本誌だけがここ1ヶ月ほど前から叫び始めました。

 もちろん円安加速で国内資金の流出加速を確認しているからですが、より正確にいえば政府や日銀が(どちらも旧大蔵省です)量的緩和の「弊害」も国内資金流出の「恐怖」も全く自覚していないからです。

 最近の国債利回りの一層の低下は、景気を一層低下させるだけでなく、日本が財政破綻への近道を歩んでいることを「明確に暗示」していると感じます。

 日銀が異次元に国債を買い入れているのだから心配ないではないか?

 日銀の国債買入れ資金は、民間銀行の余剰資金を日銀当座預金で吸い上げているだけなので、国内資金が海外に流出してしまうと「あっと」いう間に枯渇して買入れを続けることができなくなります。



「5年債マイナス金利」が日本売り誘発も

2014年に苦戦を強いられたヘッジファンドにとって、円売りポジションは貴重な稼ぎ頭であった。2015年も円先安観が強いだけに、さらに130円をめざし円売り攻勢をかけたいとの思惑が強く伝わってくる。

 そこで彼らは何を円売り加速の引き金と見ているか。

 筆者の注目は5年債がマイナス金利に転じるとき、という見方が複数あったことだ。彼らの市場感覚では「5年債マイナス金利」という事態は重い。「財政ファイナンス」(財政赤字を中央銀行が国債購入でまかなう)リスクの切迫感が強まるからだ。シャンパンの勢いもあるのだろうが、「日本売りの引き金を引くことにもなりかねない」という言い回しも見られる。

 26日の日本債券市場では10年債が過去最低の0.300%の攻防となっている。つれて5年債も0.03%台にまで下がってきた。この1か月で1%前後の急落だ。

 このような債券市場の地合いが続くと、新年早々に5年債マイナス金利のシナリオも現実味を帯びてくる。そのときは、欧米市場で日本の財政規律の緩みがリスク要因のひとつとして認識されよう。あるいは投機筋が好んではやす材料にされやすい。

 ヘッジファンドの仕掛けとしては、5年債がマイナス金利に接近した時点で、いち早く円売りに先走る可能性がある。静かに5年債利回りの「臨界点」が意識され始めた。



その2

  財政赤字がいくら大きくても、それは民間の需要不足を公的需要で補っている結果で、(効率が良いか悪いかの問題はありますが)それだけではあまりヒステリックになる必要はありません。怖いのはその公的債務を国内資金でファイナンスできなくなる事態です。

 このような状態を一般的に「財政破綻」といい、普通は公的債務や民間債務を海外資金に依存していた国が、何かしらの理由で海外資金が一気に流出してしまい急激な金利上昇(国債暴落)と通貨安そして株安に見舞われるケースです。

 先日のロシアは、そこまで海外資金に依存していたわけではありませんが経済制裁による外貨調達難と原油安で、その一歩手前となりました。

 日本の公的債務はもともと海外資金に依存していませんが、その大半をファイナンスしている国内資金が急激に海外に流出すれば、やはり同じ「財政破綻」となります。さらに政府も日銀も国内資金の海外流出(海外投資のことです)をむしろ奨励しているようにも思えるため、ますます不安になってきます。

 次に日銀当座預金の仕組みですが、直近(12月20日)の日銀は254兆円(202兆円の長期国債と52兆円の短期国債)を、90兆円の日銀券と175兆円の日銀当座預金でファイナンスしています(その他の勘定は省略しています)。

 ここで90兆円の日銀券は返済義務がなく日銀の資本に準ずると考えられますが、175兆円の日銀当座預金は預金者である銀行から要求されるといつでも支払わなければならない「他人の勘定」です。

 具体的には日銀が銀行から国債を買い入れると、その代金は銀行が日銀に保有する当座預金口座に入金されます。普通は銀行が新規の貸出しや国債買入れのために当座預金を取り崩すのですが、最近はどの銀行も資金が余っているため「当座預金に預けたまま」となります。
 
 日銀はこの当座預金残高に年率0.1%の利息を支払って「繋ぎ止めて」います。

 最近の国債利回りの急低下で、残存年数が4年以下の国債利回りが軒並みマイナスとなり、発行額の多い5年国債利回りが0.03%、7年国債でも0.09%です。

 つまり銀行は残存年数7年以下の国債をすべて日銀に売却してしまい、その代金を日銀当座預金に積み上げておけば、大変安直に収益が上がることになります。つまり日銀の「もっと異次元となった」量的緩和とは、銀行に手数料(0.1%の金利のことです)を支払っているので成り立っているのです。

 国内資金の海外流出が続くということは、銀行預金がどんどん引きだされて海外投資に回るということなので、銀行は貸出しや保有国債などのファイナンスができなくなり、さすがに当座預金残高を取り崩すことになります。

 そうなると日銀は、これ以上国債を「異次元」に買い入れることができなくなり、さらに保有国債を売却しなければならなくなります。銀行や機関投資家にも国債買入れ余力がなくなると、いよいよ日本中から国債の買い手がいなくなる「財政破綻状態」となります。この状態で海外投資家が日本国債を買い入れるはずがありません。

 繰り返しですが日本の「財政破綻」は財政赤字が膨らむからではなく、それを国内資金でファイナンスできなくなることをいい、10月末の追加金融緩和以来その可能性が格段に増大した、あるいは財政破綻までの時間が格段に短くなったと感じます。

 それでは日銀が日銀券を印刷して国債をいくらでも引き受ければよいのでは?

 これを「日銀引き受け」といい、日銀が何の対価もなしに日銀券を印刷して国債を引き受けることで、日銀が政府に購買力を無償供与することになります。さすがに最近では2008年頃のジンバブエくらいしか例が無く、当然にハイパーインフレとなりました。

 黒田日銀総裁が「物価上昇目標達成のためには何でもやる」といっているのですが、まさかこの日銀引き受けのことを考えているのではと、本気に心配になっています。


中心と周辺

 「中心と周辺」とは水野和夫氏の著作「資本主義の終焉と歴史の危機」からの引用で、「中心」が「周辺」から富を吸い上げて資本主義を発展させていくシステムのことです。
 一般的に「中心」とは西欧諸国のことで、「周辺」とは古くは植民地、最近までは中国などの新興国のことです。

 そして最近は中国などの新興国が自らも「中心」と考えて行動するようになった結果、「中心」が富を吸い上げる「周辺」が世界中から消えてしまい、世界経済全体の成長にブレーキがかかってきました。

 1990年代から「中心」である西欧諸国や日本が豊富な労働力と拡大する消費を求めて中国に進出したのですが、やがて中国自身が生産設備を拡大して「中心」のシェアを奪い、果ては世界の需要をはるかにこえる過剰生産設備をつくってしまったことなどが、その典型です。

 そうなると今度は「中心」が、自国の中に「周辺」を作り、富を吸い上げるシステムを作り出そうとします。

 日本政府が推進する「非正規労働者」「消費増税」「法人減税」の組み合わせは、見事に「周辺」を作り出して富を吸い上げるシステムとなります。

 そう考えるとサブプライムローンとは、「中心」の大手金融機関が富を吸い上げる(収益を上げる)ために作り上げた「周辺」だったことになります。儲かる市場(借り手)がなくなってきたので、貸出基準を大幅に緩和して市場(借り手)を作り出して収益源にしようとしたものでした。

 さらにユーロ圏とは、域内の「中心」であるドイツ・フランスなどが安い労働力を供給する「周辺」を域内に作り、さらに共通通貨・ユーロを導入することにより「中心」の投資リスクを軽減してしまう仕組みと考えられます。

 大変に重要なことは、この時代に新たに「周辺」を作り上げて収益を吸い上げても、それは一時的なもので必ず短期間のうちに行き詰まってしまうことです。

 サブプライムの結果はいうまでもなく、ユーロの仕組みも当初の目論見通りにならず「周辺」各国に深刻な財政危機を引きおこしてしまい、域内の「中心」にとって大きな負担となってしまいました。

 日本における「非正規労働者」「消費増税」「法人減税」の組み合わせは、間違いなく深刻な消費不振を招き、日本経済を大不況としてしまうはずです。

 本年の世界経済や株式市場を考えるときに、世界各国や各国の中に作られた「周辺」がどのような弊害を各国に及ぼすかと、どこが新たな「周辺」に組み込まれてしまうのかを見極めることが重要となります。

 ところで日本は本当に「中心」なのでしょうか? 少なくとも「周辺」ではないものの、本当の「中心」が日本を新たに「周辺」にしてしまおうと考えているはずです。

 繰り返しですが、「周辺」とは「中心」から富を吸い上げられる存在です。

 そう考えると日本(日銀)が「もっと異次元になった」量的緩和で円安を加速し、日本にある国民資産をどんどん米国などの海外に流出させているのは、(今に始まったことではありませんが)日本が改めて米国の「周辺」となるための政策と考えられます。

 国民資産が米国などの海外に流出しても、別に米国などに奪われるわけではないので「何が悪いのだ?」と考えられますが、歴史的には日本から米国などの海外への資金流出が加速したあとはロクなことになっていません。

 1997~8年にはアジア危機、ロシア危機、ヘッジファンド危機となり、2007~8年はもちろんサブプライム問題から世界金融危機となってしまいました。