ついのすみか、東京がいい 人の縁「混住」で結び直す 

2025年、東京に住む75歳以上の後期高齢者のうち、3割の57万人が独り暮らしになる。

だが地価や人件費の高い東京で介護施設の建設は容易に進まず、劣悪なサービスがはびこる。住み慣れた東京の街は、ついのすみかになり得ないのか。
 
杉並区で息子夫婦と暮らす山本喜美子(仮名、86)は最近、認知症を自覚するようになった。
ただ息子夫婦には苦労をかけたくない。区は静岡県南伊豆町に特別養護老人ホームを建て、高齢者に移住を促す構想を進めているが、近所には孫も住んでいる。「ここを離れろと言われても」
 
 山本が頼ったのは介護大手のメッセージグループが2月に始めた「在宅老人ホーム」だ。
家が密集する都会は介護者が高齢者宅を効率良く回れるため、自宅で介護しやすい。
介護施設が要らないため、費用も月10万円以下で収まる。
 
 メッセージ会長の橋本俊明(66)は「縁もない場所に喜んで移住する人はいない」と語る。ただ新たな試みの成否は未知数だ。「最初は失敗続きだろうが、まずは採算を考えないで始めてみるしかない」と、手探りのスタートを覚悟する。
 
 地縁・血縁の薄い東京の高齢化は、独り暮らしが多いという難問を抱える。高齢者の孤立を防ぐ対策が必要になる。
 「家族だけでの介護は大変」。杉並区の瑠璃川正子(65)は隣の家に住んでいた両親をみとった際、こう痛感した。そこで「他人同士でも家族のように暮らせる家をつくろう」と思い立った。
 
 「荻窪家族プロジェクト」は、高齢者や若者が1つの家に「混住」する計画だ。子どもの面倒をみたり、高齢者に声をかけたりする「自然な見守りの輪をつくる」という理想を掲げ、一部を地域の人に開放する。
 
 東京都町田市で建設計画が進む「町田ヒルズハウス」は、様々な世代が「家」ではなく「街」に集う仕掛けを施す。敷地内には高齢者マンションや介護施設に加え、大学の学生寮や家族用住宅も備える。

元気な高齢者は街づくりの担い手。近くに住む石井則子(61)は「私も職場を退職したばかり。何か貢献できるかも」と意欲を示す。

■思わぬ付加価値
 多世代の交流は思わぬ付加価値も生む。横浜市のものづくりカフェ「いのちの木」では編集者の楠佳英(39)が高齢世代の編み物の高い技術に注目。

手作りバッグを雑誌で紹介すると注文が殺到し、若い女性が編み物を習おうと集まってきた。
 
 独り暮らしの高齢者の急増に介護施設の整備が追いつかないのは東京に限らず、他の大都市も同じ。三菱総合研究所主席研究員の松田智生(48)は「混住の試みですべて解決するわけではない。

だが選択肢を示さなければ何も変わらない」と指摘する。試行錯誤の先に初めて突破口は見えてくる。



☆★認知症カフェ 「認知症予防サロン百合ヶ丘 旬(ときめき)亭」



誰でも「家族」になれる共同住宅 縁結びの新たな形

いざというときに頼れる家族は近くにいないし、あまり近所付き合いもない。でも住み慣れた街で暮らし続けたい――。
大都市に住む高齢者にとっては自然な感情だ。それならば新しく「家族」をつくってしまおう。

こんな発想から生まれたのが「荻窪家族プロジェクト」。
様々な世代の人間が「他人だけど適度な距離感」で暮らすシェアハウス計画だ。
両親の介護経験から「これからの時代、家族だけでは支えきれない」と実感した瑠璃川正子さんが旗振り役になり、共感した現役世代が建物の設計から生活の規則づくりまで一緒に考え、様々な仕掛けを盛り込んだ。