「煙幕」の細川立候補に小泉応援

今度の都知事選挙は、疑惑で幕を開けたのに、その疑惑にまったく関心がなくなった点は非常に怪しい。疑惑とは猪瀬知事の徳洲会側から借りたという5千万円が賄賂かどうかという点だ。猪瀬知事が辞めざるをえなかった経緯を考えれば、賄賂性は極めて高い。

誰が考えてもおかしいのは、道路公団を民営化するときには、バッサバッサ斬り掛かっていた猪瀬さんが、自分に疑惑が向けられるとしどろもどろになって、発言が二転三転する。そんなにあやふやじゃ、追求がますます激しくなることは、自分が追求する立場を何度も経験しているから分かりそうなもの。どうして、あんなにだらしのない対応だったのかという点はおかしい。

さらに怪しいのは、本格追求が罰則規定がある百条委員会で行われることになったが、その5日前に辞意を表明したことだ。おまけに、あれっと思ったのは、辞意を固めたのが、石原慎太郎前都知事に相談した直後だった点だ。

猪瀬さんの最大の疑惑は、東京電力が持っていた東電病院を徳洲会に売却するように便宜を図ったかどうかという点だ。そのために5千万円を受け取ったとするならば、完全に賄賂になる。都道府県知事と病院との関係は深いものがあり、知事が認定する社会医療法人は、法人税と固定資産税がタダになる。徳洲会は200以上の病院を経営しているが、東京にはなく、東京に病院を持つことが悲願だったと言われているが、単に病院を売ってもらっただけでは片手落ちで、東京都に認定してもらい税制面で恩典がないと病院経営は成り立たない。

徳洲会は既定の病院経営では本当に苦しんでいる患者を救えないと、自由な診療体制を謳っている。それが一般的になると、病院同士の競争が始まる。日本医師会はそういう医療体制は質の低下をもたらすと、徳洲会には真っ向から反対している。認可する側の東京都には認可するなという圧力も当然かかってくる。東京都は徳洲会の病院を認可するのは、医師会と調整する能力か、対峙する覚悟かの何れかが必要で、そこに賄賂のつけいる隙ができる。

猪瀬さんは、副知事時代の一昨年6月に東電の株主総会で、原発問題で経営が揺らぐ東電経営陣に東電病院の売却を迫った。するとその3ヶ月後に東電は売却する方針を発表したのだった。さらにその1ヶ月後に猪瀬さんは、徳洲会の徳田虎雄氏に都知事選出馬の挨拶に行っている。これは実に怪しい流れだ。

猪瀬さんの疑惑を考えると、都知事になりたかった猪瀬さんが徳田さんに応援を求めたという構図になるが、猪瀬さんが副知事時代に東電の株主総会に出て、東電病院の売却を迫ったのは、都知事を無視して行えるはずがない。東電に東電病院の売却を迫ったのは、むしろ石原都知事だと考えるのが自然だ。

石原さんが都知事になった15年前、その選挙に出ると決断した当日に、石原さんは徳洲会の徳田虎雄氏と会ってアドバイスを求めたと読売新聞は報じている。石原さんが徳田さんと仲がいいのは、マスコミ界ではほぼ常識。猪瀬さんの5千万円は可愛い方で、実は、その前から石原さんが徳洲会側から相当な応援をもらっているのではないかという噂が絶えない。

そうすると、実は、5千万円をもらって危ないのは猪瀬さんではなく石原さんだったのではないかという疑いが出てくる。東京電力に東電病院の売却を迫った段階で、徳洲会側はすでに石原さんに圧力をかけ、東電病院を徳洲会の病院として認可してもらうようにしていたのではないか。それが実現する見込みが立った段階で都知事選挙が行われ、猪瀬さんにバトンタッチされた。そこで、徳洲会側の選挙違反が判明して、慌てて猪瀬さんは5千万円を徳洲会側に返した。その事実が明らかになると、マスコミの追求が猪瀬さんに向けられたが、東電病院を徳洲会に渡す脚本はすべて石原さんが書いているので、猪瀬さんは細かい利害関係が分からない。発言が二転三転した。「自分は政治のプロじゃない」からとの弁明は、プロは石原さんだと開き直ったように聞こえる。最後は、石原さんに自分の身代わりになるように頼まれ一巻の終わりになったーーというストーリーが描ける。

猪瀬さんが辞めて、それで終わればいいのだが、マスコミの追求はそう簡単に収まらない。そこで、小泉さんと細川さんがタグを組んだと思われる。人気者の小泉さんが登場すれば、世間の目はそちらに移る。石原さんと小泉さんの仲は縁戚関係もあってきわめて良好だ。政治信条も、反中国で一致している。小泉さんは脱原発で細川さんと意見が合ったと急に言い出し、都知事選に出たらと誘ったというが、まるで子どもの作り話のようだ。

第一、都知事が脱原発を東電に迫ったところで、今はどうすることもできない。猪瀬さんが東電に迫ったときは東京都が2パーセント強で筆頭株主だったが、今は原子力損害賠償支援機構が半数以上の株を持っている。東電は完全に国の管理下に置かれている。都知事が騒いでも東電を脱原発企業にするよう経営方針を転換させることはできない。

それでも、小泉さんが出てくれば、世論はそちらに向く。実は、細川さんは新党乱立の十数年前に、徳田さんが作った「自由連合」に新進党を離脱して入党し、代表になったことがある。その時、どさくさに紛れて2億円以上の政党助成金を手にして問題になった。細川さんと小泉さんは考え方や政治信条がまったく違う。その二人の利害が一致するのは、石原さんと徳田さんを助けることだ。そこにどれだけのお金が動いたか、あるいは友情だけのヘルプなのかは分からないが、細川さんが都知事になって、小泉さんが応援しても、日本を脱原発国家にすることはできない。日本を脱原発国家にするのは都知事でもなければ東電でもない。「脱原発」は何かを隠す「煙幕」だと考えないと、まったく話が通じない。

徳洲会の徳田虎雄さんは、徳之島のお生まれだ。当時は、まだアメリカの占領下にあった。そこで、幼い弟さんを医療がないために失い、内地にいれば落とさないですんだはずだという悔しさが使命感になって医者を目指すことになったようだ。命は平等だという信念から、24時間体制の急患を断らない年中無休の医療体制に共感を持つ人も多く、病院を増やしていった。ご自身の信念を貫くには政治活動が必須だとして、衆院選で当選し自民党の追加公認を得たが、日本医師会の反発が強く公認を取り消された(1993年)。

徳田さんの理想と行動力は多くの人を惹き付けたが、同時に目的のためには手段を選ばずとの批判も出ていた。今回の選挙違反も息子である徳田毅氏をなんとしても当選させる勢いで、徳洲会の職員を総動員したことが逮捕容疑になっている。その逮捕が、東電病院の売却直前に行われたことは、東京地検特捜部が相当深く今回の事件を探っていることをうかがわせている。

もし、マスコミの猪瀬さんへの追求が激しくなれば、この選挙違反事件との関連も追及され、最後には石原前都知事との関係に迫ってくるのは当然の流れだった。地検特捜部が石原さんを標的にしていた可能性は十分にある。これを阻止するために、猪瀬さんは退任させられ、徳田さんにガードを付けるために細川さんが立候補し、石原さんを守るために小泉さんが応援したのではないかと疑える。

細川さんと小泉さんのパフォーマンスはいわば煙幕なので、細川さんが知事になる気など毛頭ないはずだ。だから、都知事が東電の経営を変更できないのは百も承知で「脱原発」という国民が飛びつきそうな話題をぶち上げ、細川さんはいらぬ追求を避けるために討論会にも出ようとしない。