出口なきQEで金融破綻に向かう日米

QEは国債金利を下げるための政策だが、QEによって国債金利が人為的に下げられていることを国債投資家の全員が知っているため、QEを減額した時の金利高騰が恐れられ、民間市場で国債の売れ行きが悪い。

日銀のQEが新規国債の大半を買い占めているため、民間の国債市場は供給も需要も先細り、わずかな衝撃で金利が激しく上下する。

この不安定を恐れて投資家がますます国債を買わなくなり、QEで国債購入用の資金が無限大にあるのに、下がるべき金利が逆に高騰してしまう。

QEによる国債金利の高騰は「起きるか起きないか」でなく「いつ起きるか」の問題になっている。

人民元は今年中にSDRに入るだろう。元は、世界が多極型の複数基軸通貨体制に転換していくなか、基軸通貨の一つになる。

一方、金地金のSDR加入はまだ先かもしれない。
元や金地金の先行きを決めるのは、元や金自身でなく、ドルの延命策がいつ破綻するかによる。
日銀のQEなどゼロ金利策の長期化により、日米の国債の値決めが困難になる信用不安が起きているのが、今の最大の金融不安だ。

この信用不安が拡大・顕在化するかどうかが、今後しばらくの注目点だ。
 

池尾和人・慶応大学経済学部教授に日本の異次元緩和の行く末を聞く

昨年10月に日銀が発表した追加緩和で、日銀による年間の国債買い入れ額は80兆円と、政府による新規国債発行額約50兆円を上回ります。ターナー氏は、「日銀が買い上げた国債を永久に保有し続ければ、日銀が保有する以外の債務の残高は減っていくことになる。これは明かにマネタイゼーションだ。

従来の考えでは危険なインフレを招くことになるから中央銀行としてはタブーの措置とされてきた。しかし、満期を迎えた国債の資金で新たに国債を買い入れ続ければ永遠に保有できるのだし、その分、経済を活性化できのだから実は何ら問題はない」と主張されました。本当に「問題ない」と言い切れるのでしょうか。


最近、日銀が大規模緩和を続けても問題は発生しないという主張を超えて、貨幣発行益(シニョレッジ)で財政負担を軽減できるといった論調が増えてきています。

 しかし、こういう議論は、言ってみれば中央銀行というのは、「鉛を金に変える錬金術が使えるんだ」という話です。打ち出の小槌を持っているというか、一種の錬金術が可能だという話です。もし打ち出の小槌が存在すれば、こんなに嬉しい話はない。あからさまに打ち出の小槌の存在を主張しても誰も信用しませんが、貨幣発行益といった専門用語を使ってもっともらしく説明されると、願望としてはそういうのがあってほしいと思っているから、「あり得る話ではないか」と人々を惹きつけてしまうところがあります。でも、打ち出の小槌は存在しないというのが、本当の現実です。


国債をあまり大量に発行したら、「国債価格が暴落するのではないか」と言われてきましたが、そんなことはこれまでは全然起きていない。「国債暴落」なんてイソップ童話の「羊飼いと狼」と同じで、オオカミ少年が言っていることに過ぎないと嘲笑する人もいます。

でも、この童話では最後には狼が本当に来るんです。永久に狼が来ない、という話ではありません。

 
永久運動機関は存在しないというのが物理の法則であるように、やはり「フリーランチは存在しない」*というのが経済原則です。要するに、「無から有」を作り出せればいいんだけれども、「作れない」っていうのが経済原則です。

物事をどういう時間的なスパンで評価するのかというのが重要で、まだ4~5年、ひょっとしたら10年くらいは今みたいな野放図な財政経済運営を続けていても、日本は今のような経済状態を維持できる可能性の方が高いのではないかと見ています。

 しかし、日本の人口動態を考えれば、それ以降、景色は急激に変わっていくと思います。連続的にゆっくりとリニア(線形)に変化していけば、あらかじめ変化に気づきやすくていいんですが、直線的に変わるのではなく、急に様子が変わっていくと想定されます。

現在、日本銀行がやっている量的緩和というのは、準備預金を増発することで国債を大量に購入するというものです。準備預金というのは、民間の銀行が日本銀行にある自分たちの当座預金口座においている預金のことです。銀行が保有している準備預金の資金源となっているのは、私たちや企業が銀行に預けている預金です。銀行預金にはゼロに近い金利しか付かないけれど、国民はみんな文句も言わず銀行にお金を預けています。その預金を見合いに銀行は国債を保有したり、準備預金を保有したりしているわけです。

 要するに今は、国債<-(日銀)<-準備預金<-(民間銀行)<-預金、という資金の流れになっています。国債を消化する資金を最終的に提供しているのは、私たちや企業の預金です。財政赤字をまかなっているのは、民間の貯蓄です。これまでも、国債<-(銀行)<-預金、という流れで、国民が間接的に国債を保有していたのですが、異次元緩和の結果、間々接的な(間接を二つ重ねた)国債保有構造に変わったと言えます。

現在、引退して高齢になった人は自分の預金を取り崩して使っていますが、若い人達は貯蓄しています。企業預金も含めると、日本の預金は全体としては、まだ年率3%ほど増え続けているので、国債が年間40~50兆円増えても回っている。当面は大丈夫だという感じです。順調に銀行に預金が集まっている限り、日銀が準備預金を増発しても銀行はそれを保有できます。それゆえ、今は問題がまだ顕在化していないと言えます。

しかし、本当に未来永劫、みんな黙っておとなしく自分の貯蓄を使わないで預金のまま置いておくでしょうか。高齢化がさらに進めば、預金を取り崩して使う人の方が多くなってくるのではないでしょうか。守銭奴ならお金を持ったまま死ぬかも知れないし、使おうと思っていたけど早死にしてしまって使わなかったということはあり得ますが、普通の人は老後に使おうと思って貯蓄しているわけですから、当然、どこかで使い出すはずです。

日本の家計が保有する金融資産規模は約1600兆円とか1700兆円とされますが、そのうち家計も住宅ローンなどの負債を抱えているから、それらの負債を引くと純資産は1300兆円くらいです。これに対して、政府が抱える債務のうち、公的年金などが保有する国債は資産でもあるということで、それらを差し引くとネットの債務は650兆円。すなわち、上述の間接保有の構造からすると、家計純金融資産の半分は国債消化に充当されている。

 この部分について家計が使おうとせず預金などの形で持ち続けていれば、問題は生じません。借金をしていても、いつまでも返せと言われなければ、もらったも同然で、負担にはならないわけです。これまでは、家計金融資産は増大する一方だったから、国としてはもらったも同然という意識から抜けられないという感じだった。しかし、あと10年くらいすると、家計金融資産の取り崩しが始まる。すると、国は借金を返せと言われることになる。その時にどのようにして返すのか。増税が難しければ、インフレ(による実質的な増税)しか途が残されていない恐れがあります。

生産能力もむしろ落ちてくる中で、預金を取り崩した購買力が加わると、生産を上回る需要が生じることになるので、物価が上がらないと辻褄が合わなくなります。そして、先ほども言いましたが、インフレが始まる頃には恐らく急速に風景が変わっていくことになると思われるので、物価が1.5倍くらいになっても不思議ではない感じがします。もし数年で物価が1.5倍くらいになるとすると、1ケタといった生半可なインフレ率ではすまないという話になります。要するに、2ケタのインフレは避けられない恐れがあるということです。

 もちろん、こうした過度のインフレを阻止するためには、日銀が金融引き締めを行えばよい。しかし、金融引き締めをするというのは、日銀が国債購入による量的緩和によって供給してきたお金(準備預金)を回収するということだから、貨幣発行益で財政赤字を賄えるといった話が成り立たなくなるということです。

 換言すると、2020年代に日本の財政が貨幣発行益に頼らないでもやっていけるようになっていたら、物価安定を優先できる。ところが、貨幣発行益に頼らなければ財政運営が成り立たないような状態のままだと、日銀はジレンマに陥ることになってしまいます。

中央銀行が財政のスタンスから全く独立して行動を選択できるわけではありません。本来、独立したしっかりした中央銀行であれば物価をコントロールできるはずだという話がされます。しかし、そうした話には大きな前提があります。それは、財政当局が節度ある(専門用語では、リカード的と言われる)財政政策をとる、ということです。

 いかに物価の安定を最重視する独立した中央銀行であったとしても、財政当局が野放図な(非リカード的な)行動をとるのであれば、物価安定は実現できないということが知られています(物価水準の財政理論)。そうした事態を経済学では「財政支配(fiscal dominance)」と呼んでいます。

 その直感的な意味を説明すると、どんなにタフな中央銀行であっても、国家財政を破綻に追い込むわけにはいかないということです。今の日本のように財政赤字を垂れ流している状態が続いていると、インフレ懸念があるからといって中央銀行が国債購入を減らすような行動をとると、国債価格が暴落し、財政破綻の引き金を引くことになりかねない。つまり、中央銀行としては「財政破綻」をいわば人質にとられているような状態になれば、やはり財政破綻を避けるという方を優先せざるを得ない。すると、物価の安定は犠牲にせざるを得なくなるということです。

預金準備率を引き上げるというのは、経済効果としては銀行に課税するのと同等です。インフレを抑えるために銀行に課税するというのは、確かに考えられない方策ではありません。ただし、我が国には「準備預金制度に関する法律」というのがあって、準備預金率については引き上げられる上限を設けているので、法律改正をしない限り、無限に引き上げることはできません。現行法上の上限いっぱいまで引き上げたとしても、今の超過準備分はとても吸収できません。

 それよりも、インフレが懸念されるようになったときには、米国の連邦準備理事会(FRB)が予定しているように、準備預金に付利している金利水準を引き上げて、銀行に自発的に準備預金を保有し続けさせるというやり方が考えられます。けれども、それを日銀がすると、今のような貨幣発行益を得られなくなるどころか、むしろ逆ザヤになる可能性が非常に高い。

今の日銀の異次元緩和は厳密には紙幣印刷ではない。日銀の口座に準備預金が積み上がっているだけで、実際に市中に紙幣がどんどん出回っているわけではないからです。その準備預金も金利がゼロではなくて、わずかながらも金利をつけているので、資産の性質から言うと、短期国債と変わりません。この意味で異次元緩和は、長期の国債を買って、それを短期の国債に置き換える操作をしているに過ぎないともいえます。

 そういうことで、引き締めが必要になって、短期の負債に払っている金利を引き上げることになったら、日銀が逆ザヤになって損失を負ってしまう。その分は政府の負担になります。やはりフリーランチは存在しないのです。

それを回避するためには、最低2020年までに財政規律を回復させていく必要があります。2020年までにプライマリーバランス*の黒字化を図るというのは、「適当な目標」ではありません。人口動態から考えると、2020年は延ばしに延ばした最終リミットです。さばを読んだ締め切りではない。プライマリーバランスの黒字化だけで十分と言えるかどうか分かりませんが、一応、そこまでに財政健全化の目途がある程度ついていれば、「財政支配」に陥ることなく、中央銀行が出口政策を追求できる可能性は残るでしょう。

2008年のリーマンショックからもう6年以上経っているのに、しかも米国のFRB(連邦準備理事会)があれだけ大規模にQE(量的緩和)をやったにもかかわらず、米国の景気回復がきわめて緩慢なものでしかないという事実があります。こうした事実を受けて、金融危機後のような状況においては純粋な量的緩和というのは効果が乏しいのではないのかという問題意識が生まれてきています。

 そうした中で、何が効くかと言えば、やはり財政出動だと主張する人が増えてきています。さらに、従来の市中消化の国債発行を原資とした財政出動ではなく、中央銀行によるマネタイゼーションを原資とした財政出動(money-financed fiscal stimulus)こそが有効だという議論が出てきています。中央銀行によるマネタイゼーション(財政ファイナンス)を原資とした財政出動は、ヘリコプター・マネー政策とも呼ばれます。かつてはタブー視されていた議論ですが、景気低迷が長期化する中でタブーに踏み込もうという雰囲気が出てきています。

 アベノミクスも異次元緩和だけではなくて、安倍政権は発足して即、最初に財政出動を決めました。1本目(大胆な金融緩和)と2本目(機動的な財政出動)の矢をセットで行ったわけで、これはある意味、マネタイゼーションによって得た資金で景気刺激策を打ったということだと理解できます。まさにヘリコプター・マネー政策もどきのことをしているわけですが、目先の景気をよくするためだけであれば、確かにこうした政策には効果があるといえます。

ヘリコプター・マネー政策によって、しばらくは景気をよくできるというのを私は全然否定しません。しかし、短期的な成果だけで評価していいのかということです。今うまくいっていて問題が起きていないから、永久に問題が起きないか、というとそこには論理の飛躍がある。今日のことだけではなく、明日にどうつながるか(将来に禍根を残すことにならないか)も考えなければなりません。

 今もよくて、今後もずっといいということは残念ながらなかなかありません。ヘリコプター・マネー政策は、「財政支配」の状況に陥るリスクを著しく高めるものです。特に先にもふれた日本の人口動態を考えると、「行きはよいよい、帰りは怖い」ということになりかねないと危惧します。

最近、雇用情勢が回復していると言われます。
失業率が下がって、有効求人倍率は上がっています。これには、景気回復による面がもちろんありますが、団塊の世代が何百万人と退職しはじめているという供給面の変化も寄与しています。

 最初は2007年に団塊の世代が60歳の定年を迎えると、企業の根幹業務を支える人材がいなくなり、業務に重大な影響を及ぼすという2007年問題が懸念されていましたが、定年を65歳まで引き延ばす措置が広範に取られたことから、実際には2012年以降、大量の退職者が発生している。今がまさにそのタイミングにあたっています。

 退職者の増加は、短期的には雇用情勢の改善につながるという意味で悪くないように見えても、中長期的には潜在成長率を低下させるものであり、それゆえ財政負担能力も低下させるものであって、望ましいものではありません。このように将来の財政負担能力の低下が見込まれるときに、将来に負担を先送りするような政策をとることが賢明か、ということです。

安倍政権発足直後は、ヘリコプター・マネー政策もどきの刺激策のおかげで成長率は上ぶれしましたが、あとはむしろ下ぶれして、平均値でみると以前に比べて成長率は特に上がっていないというのが実態です。きつい言い方をすると、アベノミクスによって、結果的には経済のボラティリティが上がっただけではないかと思えます。金融市場関係者が多いエコノミストの人達は、株価の上昇など金融市場がよければ経済もいいと評価しがちですが、実体経済に目を向けると、安倍政権発足後の2年間の実質経済成長率の平均は0.5%程度でしかありません。

 それでも国民は将来が不安だからなのか、黙ってお金を貯め込んでいる。そのために、問題が顕在化していない。問われているのは、「今さえよければ」と考えるのか、「将来」を見据えるかです。換言すると、現在と将来にどういうウエイトづけをするのかということです。普通は「子孫のことを考えろ」とか言いますが、経済学者のケインズも「100年後には我々は全員死んでいる」と発言したという話があるように、そんな将来にまで高いウエイトをかけないで政策が選択されてしまいがちです。そのことを自覚し、近視眼的にならないように努力する必要があります。

 私は最近、「国家25年の計」というのを主張しています。さすがに今の社会で「国家100年の計」というと絵空事かもしれませんが、今の日本では少なくとも四半世紀の時間的スパンをもつことは不可欠だと考えます。2010年代の残された後半の5年と、2020年代+2030年代の計25年は長いと言えば長いですが、この間はまだ生きているという人が大多数だと思います。この間は、日本の人口動態から考えるととても重要な時期です。あと十数年もしたら団塊の世代が後期高齢者になってくるわけで、日本は2020年代後半位から2030年代、極めて厳しい状況に突入していきます。その時を見据えて、足元でまだ余裕のある今のうちにどれだけ備えられるか、それが勝負です。



勝者の居ない世界

次なる金融危機の震源地は、やはりアメリカだ。
金融緩和バブルでどうにか体裁を保っていますが、そのバブルが継続しているのは実態経済が回復していないから。

仮にアメリカが利上げに成功したならば、金利体系が正常化して当然予想インフレ率も上昇します。
金利が正常化する事で「借金をするメリット」が借り手側にも、貸して手側にも戻って来ます。

借り手は「金利がさらに上昇する前に借りておこう」となり、貸し手側は「金利が正常に取れるならばリスクを取ろう」と考えるのです。
これで住宅市場に活気が戻れば、アメリカの内需は拡大し始めます。
アメリカの内需に占める住宅市場は関連産業も含めると小さくはありません。さらに、インフレ率が正常化する事で購入した住宅価格が値上がりすれば、新たな担保が生まれるので、消費好きのアメリカ人は新たな借金をして消費を拡大します。

これがFRBと米国政府が思い描く「勝利の方程式」でしょう。
 

■ 金利の正常化に脆い、金利が下がり過ぎた債権市場 ■

しかし、アメリカの実態経済が回復する前に「バブル崩壊」が起こる。
IMFも警告を出している様に、次なるバブル崩壊は「ジャンク債市場」で発生し、それが債権市場とそのデリバティブ市場に伝搬して行きます。

FRBは量的緩和によって「超低金利の資金」をばら撒いてきました。
その為、債権市場にも大量の資金が流入し、結果的には債権価格を押し上げ金利を低下させました。少しでも金利が確保できる債権として「ジャンク債」が注目を集め、ジャンク債の金利が5%を切るような状態が続いていました。


■ 高収益を支える『自社株買い』と『社債市場』 ■

ジャンク債の金利が低下した最大の理由は、普通の企業の発行する社債の金利が下がり過ぎた事が原因です。
アップルなどの社債の金利は極限まで低下しています。30年固定金利が3.8%で発行されています。米国債並みの金利で企業が資金調達出来ているのです。

アメリカの優良企業の業績はリーマンショックで低下しましたが、その後、市場最高益を出す企業が増えています。
これをして「米国景気は回復している」とされていましたが大間違いです。

リストラによる人件費の削減もさることながら、社債の金利低下によって資金調達コストが極端に低下した事が業績向上に大きく貢献しています。

1) 安い金利の社債を発行して、高い金利の負債を返済し有利子負債を圧縮
2)安い金利の社債で資金調達して、リーマンショックで下落した自社株を買う
3)株式発行による配当コストを、自社株買いによって圧縮
4)株価アップによって株式の利益も拡大
4)自社株買いによって株価を吊り上げ財務状況をお化粧する

この様に『社債市場で安く資金調達して自社株買いをしする』というソリューションは簡単に『自社株買い』と呼ばれ、アメリカの優良企業の経営のトレンドとなっています。


■ 金利の正常化で損をする社債保有者たち ■

「国債も社債も償還期限まで保有すれば損はしないじゃないか」と思われるかもしれませんが、これはあくまでも「満期保有」を前提とした投資家に限った話です。

実際には国債も社債も活発に売買されて、金利差で利益を稼ぐ運用がされています。債権ファンドのマネージャ達は、運用利回り確保する事が使命なので、金利上昇局面において金利の安い債権を手放そうと必死になります。その為、債権市場で金利の安い債権が売られ債権価格が下落します。(金利は上昇)

『金融緩和バブル』の問題点は、ジャブジャブに供給される資金が市場に流れ込む事で、金利が必要以上に低下し、金利上昇局面において損失が発生する点に集約されます。

リーマンショック以降の緩和バブルによって、
債権市場は国債も含め『金利上昇リスク』に対して非常に脆弱になっています


■ リスクは既に世界中にばら撒かれている ■

そして今、最も破綻が心配されているのが、サブプライム層の自動車ローンと、アメリカの学生ローン、シェール関係を主体とするエネルギー企業の社債(ジャンク債)です。
これらのローンはリーマンショックの発端となったMBS(住宅担保証券)の様に、細切れにされ、リスクが見えにくくされて様々な金融商品に加工され全世界にばら撒かれています。
これらの債権や金融商品はは金利上昇局面で確実に破綻します。


■ ダムは一番弱い所から亀裂が生じやがて決壊する ■

上記の債権の総額は、債権市場全体に比べれば決して大きくはありません。
アナリスト達はここの債権の破綻リスクを計算して、「この程度なら市場に大きな影響を与えない」と言っています。

しかし、破綻は自動車ローンや学生ローン、あるいはジャンク債市場で単独で発生するのでは無く、リスクの高い債権が同時多発的に破綻します。
こうなると市場の常で「次は何処だ!?」と疑心暗鬼に囚われ、流動性が一気に枯渇して市場は機能停止に陥ります。

健全な社債市場も影響を免れ得ず、優良企業であっても現在の様な安い金利で資金調達する事は不可能になります。

従来はリスクオフの局面で債権が買われ、リスクオンの局面で株式などのリスク資産が買われてきました。
しかし、債権市場が崩壊すると資金は逃げ場を失います。
特にアメリカの株式市場における自社株買いの影響は低く無いので、社債市場で資金調達が困難になると、自社株買いも停止します。

この事を良く知っている投資家達は、社債市場で金利上昇が本格化すると見れば、米株市場も暴落すると予測します。

こうして、サブプライムの自動車ローンや、貧乏学生の学資ローン、自転車操業のシェール企業の社債といった、最も脆弱な所で起きた亀裂は、やがて債権市場から株式市場にまで伝搬する事になります。


■ 住宅市場でバブルが起きる前にバブルが破綻する事こそがブラックスワンの正体 ■

市場関係者は、そろそろ次のブラックスワンが現れる頃だと薄々気づいています。
ただ、前回のサブプライムローンの破綻の様に、ある程度の規模の市場が破綻すると予測して、次なる危機に備えてるはずです。

ただ、米実態経済の回復は弱く、住宅市場も消費者ローンも、バブルと呼ばれる様な加熱感は有りません。
ですから、ブラックスワンは当分現れないと考える市場関係者は少なく無いはずです。

しかし、問題は、「金利上昇」によって池の推移が等しく下がって行く事にあります
水面下では、あっちも、こっちもリスクが身をひそめています。水位が低下する事で、それらが一斉に姿を現すのです。

これが次なるブラックスワンの正体です。
 

■ 世界全体がリスクの塊になっている ■

次の危機の特徴は、「世界全体で崩壊が起こる」事でしょう。

金融緩和バブルは、新興国に大量の資金流入を発生させています。
米利上げの予測だけで、新興国市場は既に資金還流によって脆弱化しています。

中国は、リーマンショック後に世界経済を支える為、国内に大量の資金を供給し続けてきました。
これらの資金は理財商品(シャドーバンキング)という投資によって、既に巨大な損失を抱えていて、いつ破綻してもおかしくない状態です。
さらに、過剰な不動産投資によって不動産市場も崩壊寸前となっています。

ヨーロッパのリスクはやはり南欧債でしょう。
それらを大量に保有する銀行セクターがリスクの中心になるはずです。
そもそも、リーマンショックで破綻したデリバティブ商品の6割をヨーロッパが保有していたと言われています。

現在は市場が安定しているので、そのリスクは見えにくくなっていますが、再びリスクが顕在化した場合、ヨーロッパの銀行はどこも疑心暗鬼に陥り、流動性が一気に枯渇するはずです。
これはリーマンショック直後と全く同じ現象が起きるわけです。


■ 債権市場のリスクが国債市場に伝搬したら日本はヤバイ ■

日本のリスクは日本国債でしょう。

日本国債は長期的には既に破綻していますが、日銀が日本国債市場をジャックする事で金利上昇を抑え込んでいます。
現在の日本国債市場が維持されているのは、日銀という大きな買い手を相手に金融機関が利益を出す構造が継続しているからに過ぎません。

次なる金融ショックが発生し、それが欧州を始めとする国債市場に飛び火した時に、日本国債を保有する日本の金融機関がどういう行動に出るかは未知数です。

誰も売らなければ問題は有りませんが、日本国債の金利がジリジリと上昇し始めた場合、国債の運用を任された人達は、刻々と増大する含み損にいつまで耐えられるでしょうか・・・。

もっとも、この時点では既に日本株市場は暴落を演じているはずで、株式や外債、外国株の運用を手じまいした資金が日本国債に逃避するという筋書きはゼロでは有りません。

ただ、いままでは安全な逃避先と思われていた日本国債が、この時点で安全と判断されるかは??です・・・。


■ みんなダメダメになる所から、世界経済と通貨システムが再設計される ■

中国は過剰なまでの生産設備と、住宅を含めて少々過剰なインフラと、少々過剰な人口と、そこそこの資源を抱えています。
要は、成長力は依然として高いのです。

日本はバブル崩壊後に不良債権の処理を10年以上続けました。
これが日本の失われた20年に繋がります。

しかし、中国は不良債権を一気に処理するでしょう。所謂「徳政令」ですが、多少の混乱があっても古来、バブル崩壊の後処理として最も有効なのが「徳政令」です。

個人の権利が強くなった現代において先進国で徳政令を実行する事は不可能でしょう。(海外に対しては平気でデフォルトを選択しますが・・・)

しかし、共産党一党独裁で国民の権利の弱い中国ならば「徳政令」は実行可能です。
国民が暴動を起こすかも知れませんが、その時は戦車の出番です。世界が黙っていないでしょうが、世界の声よりも共産党一党独裁を優先するのが中国です。

国民も命が惜しいでしょうから、暴動は体制を崩壊させる事は出来ずに鎮圧されると思われます。
そもそも、共産党以外に国民をまとめられる指導者が見当たりません・・・。

こうしてBRICs諸国は、半ば強引な手段で混乱を乗り切るでしょう。
一方で、先進国各国は有効な手立てを打てずに危機が長引くはずです。

中央銀行が大量に資金を投入するのでしょうが、事ここに至って「
通貨の信用問題」が発生するはずです。

リーマンショックのい直後に「ドル基軸体制の継続性」に注目が集まりましたが、やはり大規模な金融危機を2回も起こせば、さすがに「ドルとアメリカに任せる訳には行かない」となるはずで、全ての通貨の信用が棄損する中で、次の通貨体制が模索されるハズです。
 

■ 勝者が居ないから良いのだ ■

一見、誰も勝者の居ない次なる金融危機ですが、現在のドル基軸体制が発足して70年以上が経過し、このシステムは既に制度疲弊を起こしています。

金融市場を肥大化させ続ける事で資金需要を作り出して延命して来たドル基軸体制は、金融市場の自己崩壊によって終焉を迎えるはずです。

ただ、ユーロも円もポンドも元もルーブルも、まともに信用を維持できる通貨はその時点で存在しないのかも知れません。

勝者が居ないから敗者も存在しない・・・こんなマイナスにフラットな世界から、次なる世界が始まるのかも知れません。


多分、最初は敗者の寄せ集め的な地域連合が形成されるのでしょう。
日本はやはりアメリカ組でしょう・・・。

そしてそれぞれの地域連合が地域の基軸通貨を発足させ、通貨の信用を回復させてゆく事でしょう。


問題はそれが「何時」なのか・・・これだけは「神」のみぞ知る。