中国で「不動産 → 理財商品 → 株式」というバブルリレーが崩壊し、これが原油価格暴落を通じて米国の債券市場に大打撃を与え、その悪影響がブーメランとなって中国に逆流すれば、巨額の不良債権を抱えた金融機関が中国全土で破綻する可能性がある。

そうなればリーマン・ショック後にも生じなかった「21世紀の世界恐慌」になってもおかしくない。


習主席強権統治の死角、上海株騒乱

この中国株急落が、習政権の支配体制への不満感を国民の間で増幅させる可能性があることだ。北京指導部が最も嫌う社会不安へ発展するリスクだ。
中国国内で株式投資家はまだ少数派だ。しかし、株急落で全財産を失った人たちが「国により放置される」事例が、近所でも散見されるようになると、政権の指導力に対する疑心暗鬼は波状的に拡散する可能性がある。国家が株式損失の嘆きを言論弾圧しようにも、モグラたたきの如く、後を絶たない状況になるかもしれない。
しかも、相場の場合には、売り圧力の噴出を必死に食い止めている状況で、堤の一角が崩れると、制御不能となるリスクは高い。
 
中国経済が輸出主導型から内需主導型への構造的転換を目指す時期での株安だけに、タイミングが悪い。
更に、タイミングといえば、国営企業・地方政府のかかえる膨大な債務を株式・債券にスワップするという構造改革が始まったばかり。大手術ゆえ、変革の痛みをおさえる株高という麻酔が欲しいところだ。ところが、痛みどめどころか、株急落という合併症が手術中に起きてしまった。


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再び上海株式市場が急落しています

コモディティ価格が軒並み下落していることを見ても、デフレ圧力は明らかです。これまで拡大を続けてきた中国の信用サイクルが、いよいよ暗転し、緊縮に向かっている可能性があります。

つまり中国はさらに緩和する必要があるということです。

アメリカのFRBが利上げのチャンスを窺い、一方、中国は相次いだ利下げを発表しているという事は、両国の政策金利のベクトルが正反対を向こうとしていることを意味します。

このようにアメリカと中国という世界の二大経済が、ちぐはぐな動きになっているということは、投資家にとって不吉な兆候です。

一例として1987年10月19日にニューヨーク株式市場が508ポイントの暴落を演じたブラックマンデーは、アメリカとドイツの金利政策を巡る対立の表面化が発端でした。

中国は人民元を緩やかに米ドルにペッグしています。このように為替を連動させてしまうと、その国は金利政策を相手に委ねなければいけなくなります。なぜなら金利政策がまるっきり反対だと固定相場にするための為替介入コストが莫大になってしまうからです。

最近、中国の外貨準備の減少が顕著だということは、中国がドル売り/人民元買いの為替介入を行っていることを示唆しています。

景気が悪いにもかかわらず中国政府が人民元を米ドルと連動させることにこだわる理由は、この秋、国際通貨基金が特別引出し権(SDR)に採用される準備通貨の見直しを予定しており、中国人民元を準備通貨のメンバーに加えて欲しいと働きかけているからです。

国際通貨基金の側では、人民元レートが変動しようがしまいが準備通貨への採用の意思決定には関係ないと思います。なぜなら他の準備通貨は全て自由にレートが決まっているからです。

むしろ中国が現在のペッグに拘っている理由は準備通貨の構成比率で、日本円より人民元の方が大きくなるべきだと考えているからだと思います。そのためには、今は人民元の減価をなるべく避け、中国経済の規模を大きく見せる必要があります。

この準備通貨への採用は中国政府にとって優先順位の高い今年の目標です。それが、逆に中国の輸出企業を苦しめているわけです。

このようなハラハラした展開の時に、米国が無遠慮に利上げを発表すると、世界は87年の時と同じように大国間での不協和音に恐れをなすかも知れません。

もし、そのように投資家の不安が高まった場合、トレーディングのスタンスとしてはリスクオフになります。それは円高を意味します。なぜならリスクオフの環境では、それまでずっと成功してきたトレーディング・ストラテジーが巻き戻されるからです。

繰り返しになりますが「世界の株式市場が荒れ始めたら、それは円高を意味する」ということをしっかり覚えておいてください。



人民元大幅切下げのリスク

中国の製造業購買担当者指数の数字が過去15か月の最低を記録しました。
これを受けて、中国政府は人民元の一日の変動幅の拡大を発表しました。これは人民元切下げの予兆です。

およそ景気テコ入れ策で、通貨安ほど即効性のある方策は他にありません。

インドネシア・ルピア、韓国ウォン、タイ・バーツ、オーストラリア・ドルなどが下落しました。その理由は「アジア通貨危機の亡霊」に市場関係者がおののいたためです。
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中国は過去に何度も人民元の大幅切下げを行っており、1990年代に入ってからの切下げは、それまでブームに沸いていたタイ経済の活力を殺ぎました。
これが遠因となってタイのバーツ危機が起き、それはアジア全域を包む通貨危機へと発展したのです。



中国経済に変調の兆しで投資戦略を大幅変更

中国経済に変調の兆しが見えたので投資戦略を変更

世界経済のけん引車の役割を果たしている中国経済に変調の兆しが見えます。そこで次のように投資戦略を変更したいと思います。

 1.株式の比重を下げ、キャッシュを増やす
 2.日本株は特にリスクが高いのでアンダーウエイトする
 3.アップル、ゼネラル・モーターズ、スターバックスなど、
   中国で人気のブランドを避ける
 4.成長株を処分すること

次に私がそう考える根拠を説明します。
中国は世界経済のけん引車。中国発の世界経済減速も中国経済は世界で二番目に大きな経済です。

経済成長率を見ると、中国は他の先進国を引き離しています。 

このことは世界全体の成長に対する寄与度という点では、中国が最も重要な役割を果たしていることを示唆しています。

今回、中国本土株式市場が急落したことは、中国の都市部に住む、裕福な消費者のマインドに悪影響を及ぼすと考えられます。

それは中国発の世界経済の減速が起きてしまう可能性が高まったことを意味します。

米国連邦準備制度理事会は利上げを保留する

いま米国連邦準備鮮度理事会(FRB)が政策金利であるフェデラルファンズ・レートを利上げすると、それは中国に対しても好ましくないメッセージを送ってしまうことになります。

なぜならば中国は人民元を緩やかに米ドルとリンクしているからです。
通貨をリンクするということは、金利政策面でも、リンク先の国の方針に引き摺られることを意味します。

いま中国は景気が減速しているので慌てて利下げしているのに、この場面でアメリカが利上げすると両国の金利政策がハチャメチャになってしまうのです。
だから中国の株式市場が落ち着くまでは、FRBは相手に意地悪するような真似はしないでしょう。

ドルは売られ、同時に日本株も売られる

するとドル高を想定していた投資家たちにとって、これは想定外のシナリオになります。普通、政策金利を引き上げると、その国の通貨は強くなります。このところのドル高も、年内の利上げを織り込む動きだったと説明できます。

今後、「中国経済がさらに減速している」というニュースが出れば、それはFRBの模様眺め期間が長引くことを意味し、それはドル売りが出ることを意味します。

ドルが売られる局面では、日本株も売られます。

中国は日本企業にとって大事な貿易のパートナーです。だから中国経済の鈍化は日本企業の業績にも響きます。

アメリカの中国関連株、アップルやスターバックスなどに赤信号

中国株の下落で中国の消費者のマインドが冷え込むと、中国での販売好調を頼りに買われてきたアメリカの中国関連株にも赤信号が灯ると思います。

具体的にはアップル(ティッカーシンボル:AAPL)、ゼネラル・モーターズ(GM)、スターバックス(SBUX)、ナイキ(NKE)、ヤムブランズ(YUM)などの銘柄は要注意です。

さらにiPhoneに部品を提供しているスカイワークス(SWKS)などの半導体株、ラグジャリー・ブランドの株も警戒が必要です。

米国の投資家が米企業の中国事業を特に高く評価してきたわけ

米国の投資家は米企業の中国事業を特に高く評価してきました。その理由は、為替を心配しなくて良いからです。

これまでのようなドル高の局面では、アメリカの輸出企業の海外利益は目減りしてきました。その唯一の例外が中国です。なぜなら中国は上で述べたように人民元を米ドルと緩やかに連動させてきたため、為替リスクが無いと考えられてきたからです。

このため米国企業の人民元で発生する売上高は、しかるべきヘッジがされてない場合も多いです。

もし今後、人民元が米ドルに対して切り下げられるようなことが起きれば、米国企業の財務部長は大慌てするでしょうし、投資家もパニックすると思います。

見通しが不透明な局面では成長株を処分すること

このように見通しが不透明な局面では、投資家は株式投資全般に対して尻込みします。
それは株価評価が全般的に下がるということです。そのような投資環境では成長株がいちばん叩き売られます。


中国株暴落でゲームのルールが変わった

中国経済は世界の牽引車なので、それが今回のようにひどく脱線したのなら、世界は恐ろしい未来に備えてしかるべき措置を講じるべきです。

中国政府はリーマンショック後、思いっきり公共投資をし、また信用を膨張させることで危機を乗り切りました。このときの信用成長は前年比+30%とかの、無謀とすらいえる大胆さでした。

そのおカネは不動産投機に回りました。2010年の建設ブームは、とりわけクレイジーでした。

それらの物件が完成すると、案の定、買い手が不足し、大幅な供給過剰になりました。現在の在庫は2.2年分くらいあります。

不動産価格は軟調になっていますが、これをどうやって軟着陸させるかが腕の見せ所だったわけです。でも今回の株式市場の崩落で投資家のコンフィデンスは粉砕されました。
だから中国の不動産市場の急落は時間の問題でしょう。

因みに中国の民間セクターの信用は、GDPの2倍近いです。

今後中国の不動産市場が下がり始めたら、中国政府は株式市場を支えるだけでなく、不動産市場や銀行も支える必要が出ます。その原資として米国債を売るかも知れません。

中国が日本をはじめ海外で不動産を買い漁っていたのも、過去の話になると思います。観光客による爆買いも終わります。


このように世界で最も信用が膨張していた中国で、いまあたかも風船がしぼむように急速な信用緊縮がはじまっているのです。

だから世界が協調してこれを補ってやる必要が出てきます。

FRBは当分フェデラルファンズ・レートの切り上げを見送るべきです。
ドイツは景気が悪いのにギリシャに切詰めを強要するような誤謬に満ち、なおかつ世界経済の文脈とは真逆を行く政策をすぐやめるべきです。

いまドイツが空気を読むことをしないと、ちょうど1987年に彼らがブラック・マンデーの引き金を引いた時と同様に、ドイツが世界同時株安の悪者にされるかもしれません。


中国神話が崩壊する時

中国政府の断固とした株式市場買い支え宣言にもかかわらず中国株は下落を続けています。

今回の下げがこれまでと違うのは、投資家の間に(ひょっとして全知全能の神のような中国政府にも、出来ない事はあるのではないか?)という気持ちが芽生えたことです。

つまり国民や投資家からの絶大な信頼が失われたということです。

なお中国株は2008年にも下げているけれど、あのときは原因がサブプライム・バブルからリーマンショックへとつながる外的要因だったので、中国政府のふがいなさを嘆く声はありませんでした。

今回は上海市場のバブルを放置したのが原因なので、中国政府は責任を他へなすりつけることは出来ません。

上海市場は、世界全体の文脈から言えば小さい市場(=MSCIワールド・インデックスの3%以下)なので、それ自体は痛くも痒くもありません。欧米の金融機関に対するダメージも無いに等しいです。

しかし……

問題はそこではなくて、この信頼の喪失が、中国の不動産市場に与える影響です。

中国の不動産市場は、これまでシャドー・バンキングなどでなんとかやりくりし、バブルの崩壊を未然に防いできました。全くキャッシュフローを生んでいない物件がゴロゴロしているのに、投資家が浮足立たなかった理由は(政府がなんとかしてくれるだろう)という信頼があったからです。

しかし、今回、中国政府が株式市場暴落を防げなかったのを目の当たりにしたことで(不動産の方は、大丈夫だろうか?)という心の揺らぎが出ています。

実は日本も1990年に株式市場が崩落した際、同様のことが議論されました。あのときは「土地神話」がまだ生きていたので、「いや、株式市場は暴落しても、日本は国土が狭い。だから土地の値段は、下がらない」という主張が、結構ありました。

事実、日本の地価がズルズル落ち始めたのは、株式市場が下げたかなり後でした。

今回の中国市場の下げは、日経平均で三カ月かかった下げ幅を、一か月前後で達成してしまっています。つまり今回の方が凶暴な初速だということ。

もし中国の不動産バブルが崩壊したら、その影響は上海株式市場の比ではありません。リーマンショック以降、形成されてきた、「ニュー・ノーマル」という世界秩序が、またガラガラと変わるくらい、大きなインパクトになるかも知れません。




習近平は上海株急騰も抑え込めるか

相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えてゆく。 
著名投資家テンプルトンの相場名言だが、上海株は「もうバブルではないか。」との懐疑的な見方をあざ笑うかのように急騰を続け、「もっと上がるかも。」という中国人個人投資家の楽観のなかで成熟期を迎えているように思える。

問題は、多くの投資家が「株が上がった!」との幸福感に浸るなかで、来たるべき急反落局面ではパニック的心理が市場を支配する可能性が強いことだ。劇場内で多くの観客が一斉に狭い出口に殺到するイメージから「劇場のシンドローム」といわれる現象だ。

特に、投資家の溢れる買いエネルギーが、海外に向かうことが規制されている中国市場では、高利回りの理財商品や株など、その時々の「旬」の商品にマネーが集中し、投機色が強まりがちだ。 そこで、当局は信用取引規制などで過熱を抑え込もうとする。

通常の上げ相場であれば、市場心理を冷やすことで、ある程度、マーケット心理をコントロールできる。
しかし、今年に入ってからの、異常なまでの株価急上昇劇は、多数の株投資未経験者まで巻き込み、「買い」に「売り」にネズミの大群のごとく殺到する様相を呈している。日本の競馬場にみられるような、場外の「予想屋」たちが、個人投資家たちに囲まれ、露天商のごとく街頭で株の辻説法する光景が象徴的だ。 

ここに突発的な規制を入れると、まさに「バブルの破たん」的な株急落を誘発するリスクをはらむ。その結果、「負の資産効果」が、個人消費に悪影響を及ぼすシナリオは、内需型経済モデルへの移行を目指す現政権にとって最も避けたいところだ。 

しかし、既に上海株式市場は習近平も力で支配できない世界になってしまった。
独り歩き始めた相場が、「幸福感の中で消えてゆく。」過程が、中国経済のあらたなリスクとして浮上しつつある。 

更に、株価が急反落した場合、これまで株式市場の喧騒で覆い隠されていた理財商品のリスクがあらわになる可能性にも要注意だ。 

シャドーバンクが組成した理財商品の市場規模は色々な推定があるが、10兆元はくだらないと見られる。そのうち、デフォルトの可能性をはらむ商品は、10%以下と推定されている。とはいえ、株急落の過程で逃げ遅れた初心者投資家たちは、疑心暗鬼となり、「理財商品破たんの一例」だけを見せられただけで、取り付け的な行動に走るかもしれない。

いまだに、理財商品を保有している多くの投資家は、かりに「デフォルト」になっても、官が保護してくれるという、モラルハザードに陥っているのが実態だ。そこで、2015年中に、政府は見せしめ的な「選別的デフォルト」で個人投資家のリスク意識を鍛えようと身構えてきた。
しかし「債務不履行」という言葉さえ知らない初心者相手ゆえ、秩序あるデフォルトが実行できるか、はなはだ危うい面は否定できない。そもそも2011~12年をピークとする販売時期には、販売側の銀行にも、リスク開示などのコンプライアンスが欠けていた。
株急落が理財商品不安を連鎖的に再燃させると、システミック・リスクに発展してしまう。

ただでさえ、不動産価格下落による「負の資産効果」が顕在化している。 中国版GPIFともいえる公的年金の株購入で株価の下げを食い止める案も検討されるかもしれないが、日本と異なり、個人投資家が買い本尊なので、その効果は予見できない。

NYのベテラン・ヘッジファンドでさえ、「中国株は個人の動きが読み切れず、手が出せない。」と語るほど予測が難しいのだ。

市場の目が米利上げやギリシャに向いている間に、チャイナ・リスクがジワリ醸成されつつある。
そして、中国株が下がると、中国人個人投資家の目は金市場に向いてくる、やはり金市場における中国市場の存在感は大きい。 

150610

中国株暴落の意味

 中国株が暴落している。上海の平均株価は、6月中旬に高値の5千ポイント強をつけた後、6月末から急落し続け、現在3400ポイント前後まで、32%も下がった。中小企業の株が多い深センでは、高値から40%も下落した。中国政府が下落防止の対策を打っても効かず、急落が続いている。上海では急落の結果、上場株式の7割が取引停止になった。中国政府は、マスコミに対して株の売りを推奨する記事を書くなと命じ、年金基金や国有企業、党幹部に対して上場企業の株を売ることを制限するなど、強硬策を始めている。

 中国を仮想敵と定め(観光業や小売業が中国人観光客の増加で破綻をまぬかれているのに)嫌中プロパガンダがあふれる日本では「中国はもうダメだ」「ざまあみろ」という感じの論調が席巻している。たしかに、株価の3割暴落は衝撃的だ。しかし歴史をふりかえると、中国は、以前にもっとすごい株式のバブル膨張と崩壊を経験したのに、実体経済の成長が止まっていない。

 中国上海の平均株価は、2005年末の1千ポイント前後から07年10月の6千ポイントへと6倍に膨れ上がった後、バブルが崩壊し、1年間の急落によって株価が3分の1になり、08年末に2千ポイント前後まで下がった。今回のバブルは、昨夏の2千ポイント台から、今年6月の5千ポイント台へと株価が2・5倍にふくらんだ後、2週間で3分の2になっている。今回のバブルは、膨張の倍率が前回のバブルより小さい。 

 前回の中国の株バブル崩壊は、米国でサブプライム危機(07年夏)からリーマン倒産(08年秋)に至る債券バブルの崩壊が起きた時期と一致している。米国の債券バブル崩壊が、中国の株バブル崩壊へと感染した。今回、米国では(まだ)バブル崩壊が起きていない。しかしこれは、通貨を過剰発行して債券や株を買ってテコ入れするQEなどのバブル膨張延命策を、米国や(対米従属の)日本がやっているからだ。米日の債券や株のバブルは、実体経済のゼロ成長を無視してふくらみ続け、過去にない異常な高水準に達している。中国と米国のバブルが連動して崩壊した前回の教訓から考えると、中国の株バブル崩壊が米国のバブル崩壊へと感染しても不思議でない。 

 感染下落を防ぐためなのか、中国株の暴落が続いた7月8日、ニューヨーク株式市場がシステムの不調を理由に4時間取引が停止した。不調の原因の詳細は発表されていないが、同時期にウォールストリート・ジャーナルのウェブサイトもダウンしており、ハッカーの仕業の可能性もある。ハッカーは当局の敵ばかりと限らない(米国最強のハッカーは国防総省の要員だ)。この日、NYのダウ平均株価は1・5%下落したが、システムが正常に稼働していたらもっと下落していたかもしれない。NY証券取引所は、システムを復旧する早道(バックアップを使ったリカバリ)をとらず、システムダウンを長引かせた。バブル崩壊の感染を防ぐための意図的なシステムダウンだったなら、中国当局が国有企業に株の売却を禁止した方策に劣らない「株価の不正操作」ということになる。 

 米日の株価は、日銀などのQEによるテコ入れで、バブルが崩壊せず膨張し続けている。QEは、不正な株価操作そのものだ。リーマン危機後、部分崩壊したままの米金融システムを延命させるため、バブルに頼らざるを得なくなった。米日の当局は、自分たちのバブルが危険な水準まで膨張していることを知っているはずだ。中国は経済成長の原動力が金融でなく実体経済(輸出や内需用の製造業など)なので、中国のバブル崩壊は、実体経済に大した影響を与えない。対照的に米日は経済成長の証拠をQEなどによる金融バブル膨張の効果(株価上昇など)に頼っているので、バブル崩壊が実体経済の(見せかけの)成長を崩してしまう。

 米日は、バブル崩壊の回避(延命)が最重要の戦略だ。米国勢が中国の金融界などの内部に構築したエージェントが、今回の株バブル崩壊を誘発している可能性はある。とはいえ、そもそもマスコミや国内金融界などを通じて昨年からの株バブル膨張を煽ったのは中国政府だ。今年5月以来のバブルの最後の2カ月、小口の個人投資家つまり一般市民が、マスコミや証券会社の口車に乗って株式投資に参入し、今回の暴落で最も大損した。中国政府が、米国にバブル崩壊を誘発されかねないと懸念するなら、国内マスコミや金融界によるバブル扇動を制止するのが筋だったが、そのような動きはなかった。

 前回の株バブルの時、中国の経済成長は年率9%以上だった。今回、成長率は7%前後に落ちている。中国経済はそれだけ蘇生力が低下したことになるが、実質ゼロ成長の米日経済よりはましだ。米日でなく中国のバブルが崩壊するのは、経済原則に基づくものでなく、国際政治的な策略として考えるべき動きだ。しかしその一方で、中国の株バブル崩壊は、国際政治における中国の台頭を阻害するものでないのも事実だ。中国は、前回の株バブル崩壊後(つまりリーマン危機後)に、国際政治における影響力の拡大を加速している。

 今回のバブル崩壊が、前回のように1年続く場合、中国株は来年にかけてもっと下がることになるが、今年のAIIBやBRICS開発銀行などの設立を皮切りに、BRICSの経済面の主導役である中国は、来年にかけて国際影響力をさらに拡大することが確実だ。前回のバブル崩壊と同様、今回も、中国のバブル崩壊と国際台頭が同時並行で進むことになる。今後数年かけてBRICSが経済規模でG7を追い抜いていく流れは変わらない。 

 中国株のバブル崩壊、ギリシャ危機の継続と並んで、金地金の再下落や、原油安の再加速が起きている。金地金は、信用(幻想)に頼らない実体的な価値を持っており、信用が崩れると紙切れでしかないドルや債券の究極のライバルだ。米国勢は、ドルや債券の信用が崩れるまで、信用系の金融機能である先物を使って、今後も繰り返し金相場を下落させるだろう。 

 中国は、旧覇権国である英国が、新興覇権国である自国にすり寄ってきたのを利用して、ロンドンで値決め(談合)されている金地金の国際相場に対する影響力を拡大し、これまで米英銀行だけが値決めに参加して金相場を不正に引き下げてきた慣行をやめさせ、金相場の(正当な)上昇を引き起こそうとしている。ロンドン金市場は今年3月に制度を大改革し、その時に中国の大手銀行が地金市場協会(LBMA)の値決め会員に入ると目されていたが、実際は中国勢がどこも入らなかった。 

 中国勢の参加はガセネタだったか、と懸念される事態になったが、6月中旬、LBMAが、中国の4大銀行の一つである中国銀行が6月22日から値決めに参加すると発表した。その後、4大銀行の中の中国商工銀行も、値決め会員になることを検討していると発表し、中国勢が国際金相場の決定権の一部を握ることが確定的になった。 

 中国政府は今年中に、上海の金地金市場で、金相場の人民元建ての値決めシステムを稼働する。人民元と金相場を連動し、金本位制のイメージに近づけようとしている。短期的には中国自身、金相場を急いで引き上げようとしていない。相場が安い間に中央銀行(中国人民銀行)の金備蓄を拡大し、人民元を支える力をつけようとしている。そのため、中国銀行が値決めに参加した後、金相場はむしろ下落した。 

 中国銀行のロンドン金相場の値決めへの参加(金相場に対する中国の影響力拡大)の決定と、中国株の暴落開始が、同時期に起きていることは興味深い。中国は、ドルのライバルである金地金の世界価格決定への支配力を増すことで、ドルや米国債を潰せる力を増したが、それと同時期に、何者か(米国勢?)が中国株のバブルを崩壊させ、中国を弱体化する策略を開始している。これは、金地金という新たな武器を得た中国と、ドルや債券を防衛しようとする米国との、金融大戦の激化であると考えられる。 

 分析者の間からは、中国の株暴落によって中国人が株への投資に嫌気し、株でなく金地金に投資するようになるとの予測と、そうでないという見方の両方が出ている。もし株暴落が中国人の地金投資を増やす結果になるなら、これは中国政府が人民元に金本位制のイメージを付加しようとしていることと同じ流れになる。株の暴落は、長い目で見ると、民間を含めた中国の金備蓄の増大、金地金を使った経済覇権力の担保へと結びついていくかもしれない。

 金相場と同時に、原油相場も下落を再開した。一方、原油安の再加速は、前回の記事に書いたように、米国のシェール石油業界を潰したいサウジアラビアが、ロシアに接近したことと、たぶん関係している。サウジは、ロシアに農業部門などで100億ドル規模の新規投資を行う計画だ。ロシアは、経済制裁で欧米からの投資が入ってこなくなった分を、中国だけでなく、サウジにも補ってもらえるようになった。サウジは、米国の石油産業を潰そうとしているだけでなく、米国のロシア敵視策を妨害するようになった。もはやサウジは米国の同盟国でなく、中露イランと並ぶ米国の敵だ。 

 ロシアに対するサウジの接近は、将来的に、BRICS(もしくは上海協力機構)へのサウジの加盟につながるかもしれない。BRICSや上海機構に対しては、サウジのライバルであるイランが、すでに加盟を希望している。イランは、核問題の濡れ衣を国際的に解かれた後(早ければ間もなく)上海機構への加盟が認められる。イランの台頭を看過できないサウジは、俺たちも入れろとロシアに求めそうだ。この場合、サウジがイランへの敵視をやめることが、加盟の条件になる。インドとパキスタンが、敵対をやめることを前提に、上海機構に加盟しようとしているのと同じ構図だ。 

 上海機構を主導する中露は、諸国間の敵対をやめさせようとしている。印パや、スンニ(サウジ)対シーア(イラン)など、諸国間の敵対を扇動して自国の覇権を維持してきた米英と対照的だ。対米従属に固執することで米国を「おかみ」とする官僚機構が隠然独裁を続けられる日本では、米英が「善」で中露が「悪」であるとするマスコミのプロパガンダが根強いが、そうした善悪観は歪曲された大間違いだ。日本人は、早くそれに気づいた方が良い。中露の肩を持つ私を中傷する前に、プロパガンダを軽信せず世界の流れをよく見ろと言いたい。


序章の中国バブル崩壊

ギリシャ危機に揺れるマーケットの不安をあおるように、中国株式市場の混乱が続いている。上海総合指数は6月初旬に5000の大台に乗せたが、その後反落。8日は5.9%急落し、9日の本稿執筆時点ではやや戻しているものの、地合いは依然として弱い。

日経平均株価も、ギリシャ危機と中国株下落の不安に押しつぶされる格好で8日に2万円割れし、9日午前も前日比で一時600円を超える下落となった(その後、中国株の下げ止まりを受けてプラス圏に浮上はしたが)。

こうなると、ギリシャも心配だが、中国も心配だ。欧州連合(EU)首脳会議が開かれる12日にギリシャ情勢がヤマ場を迎える前に、中国の状況を確認しておきたい。

振り返ると、ギリシャがEU案を蹴って国民投票の実施を宣言した約2週間前の6月27日、中国人民銀行は追加利下げを決定。貸出金利と預金金利を0.25%ずつ引き下げ、それぞれ4.85%、2.00%としたほか、小規模企業向け金融機関の預金準備率を0.5%引き下げている。利下げは昨年11月、今年3月、5月に続いてすでに4回目であり、かつ追加利下げのペースは速まっている。金融緩和のタイミングとペースを見ていると、経済活動や金融・不動産市場に関して中国政府のコントロールが効かなくなっている雰囲気を感じる。

もともと中国政府は経済成長の鈍化を許容する姿勢を示してはいた。3月の全国人民代表大会(全人代)で成長率目標を7.5%前後から7.0%前後に引き下げたほか、経済構造については、高速成長から中高速成長へ、成長率重視型モデルから質・効率重視の成長モデルへ、供給能力の拡大重視から適正化重視へ、といったいわゆる「新常態」への転換を目指してきた。金融緩和の位置づけも当初は構造改革の側面支援という色が濃かった。

<売りが売りを呼ぶ展開、背景に3つの歪み>

しかし、実態は中国政府の想定以上に景気が減速しているようだ。5月の鉱工業生産は前年比プラス6.1%と、昨年5月の同プラス8.8%から大幅ペースダウン。実体経済を把握するのに有効とされている電力生産量と鉄道貨物輸送量については、5月は前者が前年比プラス3.3%、後者が同マイナス10.9%と弱い。また、相次ぐ金融緩和にもかかわらず、5月のマネーサプライ(M2)の伸びは前年比プラス10.8%と2015年目標の12%前後を下回ったままだ。

不安は不動産市場と株式市場に広がる。先に株式市場について触れると、上海総合指数が5000台に乗せた際、次のような3つの歪みが生じていた。

第1に、上海総合指数の株価収益率(PER)は20倍程度だったが、深セン総合指数のPERは40倍、新興企業で構成されている創業板指数のPERは70倍に達していた。

第2に、中国の株式市場は先進国と比べると規模が小さいため実体経済に与える影響は小さいという見方があったが、中国の株式時価総額の対国内総生産(GDP)比率は昨年末の50%未満から6月のピーク時には100%超の水準に上昇し、米国(140%)や日本(110%)に匹敵するレベルまで急拡大していた。

そして最後に、信用取引残高が2兆元を上回り、株式時価総額の3%超まで増加していた。このような行き過ぎや歪みが生じていたため、売りが売りを呼ぶ展開となっている。

その後、中国証券監督管理委員会(CSRS)が新規株式公開(IPO)の抑制方針を打ち出したり、中国の大手証券会社が1200億元を拠出して大手優良企業の上場投資信託(ETF)を購入したり、中国人民銀行が国内株式市場に潤沢な流動性を供給するとの声明を発表したりしているが、株価の調整は止まらず、中国政府のコントロールは効いていないようだ。この先も調整はすぐには終わらないだろう。各種のテコ入れ策が効いて一時的に反発したとしても、戻り売り圧力が根強く残ると見る。

<住宅市場は年後半から一段と減速か>

次に不動産市場を見ると、2013年にバブル領域に突入したあと、中国当局が不動産規制の強化に動いたことから、住宅価格は2014年にピークをつけ、その後反落に転じた。価格下落を受けて当局は一部規制を緩和し、一線都市と言われる主要都市では価格に下げ止まりの動きが見られるが、全国的には価格下落が続いている。

全国平均は3カ月連続で前年比マイナス6%という状況だ。都市移住者などによる住宅需要は根強く、不動産市場の調整は一時的というのが中国当局および強気派の見方だが、足元で下げ止まりの動きを見せている一線都市についても、再び住宅価格の下落が始まる可能性は排除できない。 

また、価格下落が消費者マインドにマイナスの影響を及ぼす可能性がある。中国政府が望む水準で住宅価格の下落を止めることが可能なのか、消費者への悪影響を政府がコントロールできるのか、という点に疑問が残る状況だ。

こうした状況を踏まえ、さらに次の2点について考えを巡らせてみたい。

まず、中国の不動産市場の調整は終わったと考えていいのだろうか。予想は難しいが、1つの経験則としては、バブルがピークに達するのは懸念の台頭からしばらくしたあと、バブルが弾けるのはさらに一定期間を経てからという展開が考えられる。

例えば、米国の住宅市場に関しては2004年から2005年にかけてオーバーシュート状態に突入したが、その後も住宅価格は上昇を続け、ピークをつけたのは2006年、サブプライム問題で市場が崩れたのは2007年だった。また、スペインにおいては、2006年に住宅市場がバブル状態に陥った兆候が散見されたが、市場がピークをつけたのは2007年から2008年であり、その後、リーマンショック、ユーロ危機の中で住宅市場は大きく崩れた。

中国の住宅市場に対する懸念が台頭したのは2013年で、住宅価格の直近ピークは2014年。中国当局によるコントロールは可能という見方が、下落局面でも市場に安心感を与えている側面があったと考えるが、その見方に疑問が生じている今、下方リスクはじわじわと高まっていそうだ。米国、スペインのケースを手掛かりにすると、中国の住宅市場が一段と減速してくるのは2015年後半から2016年にかけてとなる。

また、足元の中国株の動きがドル円相場に与える影響はどうだろう。海外投資家による中国株投資への制約が存在することを考えると、中国株下落がグローバルな金融市場に与える直接的な影響は限定されそうだ。実体経済を経由した影響については、株価下落が中国の国内消費に悪影響を及ぼし、それが国内経済の減速につながり、外需減退から世界各国の中国向け輸出が打撃を受けるというルートが考えられるが、すぐに顕在化するものではない。よって、ファーストリアクションとしては主にセンチメント経由となるだろう。

ちょうど今月初め、ギリシャの国民投票前に、どういう展開になったらドル円は120円を割れて115円レベルまで下げるだろうかと、尋ねられたことがあった。その時、筆者は「ギリシャのユーロ離脱、中国での株価下落継続と景気失速、米国の景気減速と利上げ中止が全部やって来たら」と答えた。今でもこれら3つが発生するリスクは非常に小さいと見ているが、1週間前と比べて相対的な実現可能性は高まっており、その分、短期的にせよドル円が下落するリスクは高まっている。

突発的に、ギリシャ、中国、米国に関係する悪いニュースが重なった場合、ドル円が120円割れを試しに行く展開には注意が必要だ。 




ニューノーマルへの道 険し

政府が個人のお金を株式市場に誘導し、株式投資ブームを作り上げた背景にはすでに起こりつつあり、更に深刻化しそうな理財商品の償還不能問題が絡んでいる可能性がある。

中国政府はバブルを沈静化させようと数々の不動産抑制策を打ち、何とか不動産価格の上昇を止めた。

しかし、抑制策(融資厳格化)の裏で不動産市場に資金を供給していた民間のお金がある。そう、それが悪名高い理財商品である。
不動産系理財商品は不動産価格が高騰し続ける事を前提にあり得ない高金利で個人から金を集めている。

株が上がっている間は(金を貸している方も株に夢中になれるし、金を借りている方も何かとお金が増えるので)この問題から少し意識が遠のいていた部分がある。
しかし株の利益が吹っ飛べば、再度この問題に焦点が当たる可能性が出てくる。

ここは正に正念場。

本土株、下げたと言ってもまだまだ全体的には利益が乗っている水準。

もし全員の利益が吹っ飛ぶ水準まで下げてしまったらそこには阿鼻叫喚の世界が待っていると言わざるを得ない。

だからここは政策転換しても株式市場を支えなくてはならない局面。
中国政府もようやくそのヤバさに気付いた。

改革開放後の経済政策において中国政府が大きな失敗をした事はなかった。
いや、あったのだろうがそれはGDP成長率二桁の爆発的経済成長によってかき消されてきた。

GDP成長率6%台の持続可能な経済成長、いわゆる「ニューノーマル」
カッコイイ言葉だが実現に至るまでにはまだまだイバラの道が続きそうだ。

・国内問題なのと一党支配国なので、サブプライムなどとは違う展開になるでしょうね。

・日本の借金と同じで負の部分だけに目をやると、投資的には失敗することになると思います。
 30年前もそうでしたがいつまで経っても怖くて投資出来ない。

・壊死や腐敗した部分を抱えながら走る巨象。腐敗や壊死だけを見ると全体を見誤る。