かつて、経済学者、カール・マルクスが、
 その著作の中で、次の主旨のことを述べています。


  いつか、人類は、
  社会の生産諸力を飛躍的に高め、
  その結果、すべての人々が、
  生産のための日々の労働から解放され、
  文学や芸術など、
  人間としての高度な知的活動で
  日々を過ごす時代が来るだろう。


 そして、不思議なことに、
 遠く離れたこの日本においても、
 かつて、
 全く違った分野の人物によって、
 同じビジョンが語られています。


  一億の詩人、一億の芸術家が生まれる時代が来る。


 詩人、宮沢賢治の残した言葉です。


 若き日に、この二人の言葉に巡り会い、
 人類の未来に、一つのビジョンを抱きました。


  いつの日か、
  すべての人々が、
  日々の仕事から解放され、
  アーティストとして活動する時代がやってくる。


 しかし、それから何十年かの歳月、
 仕事の世界を歩み、
 いま、未来を見つめるとき、

 なぜか、
 もう一つのビジョンに、
 心が惹かれるのです。


  いつの日か、
  すべての人々にとって、
  日々の仕事が
  最高のアートとなる時代がやってくる。



 田坂広志