どっこい、アベノミクスは生きている

安倍晋三首相が約束した経済改革に対する疑問が強まっている。今月実施された消費税引き上げによって、少なくとも年内は成長が鈍化すると広く予想されている。しかし、ジャパンウォッチャーはお決まりの悲観論に戻る前に、安倍氏と日本を今一度見直してみるのが良いだろう。暗いメディアの報道とは裏腹に、アニマルスピリット(野心的意欲=企業の投資行動の引き金となる主観的な期待)が動き出している。

 今、論争になっている賃金問題をみてみよう。賃金が伸びれば、それは、円安を通じて企業利益を押し上げ賃金プッシュインフレを起こすという安倍首相の計画が望ましい効果をもたらしつつある疑いなき兆候だろう。これに対し、懐疑的な論者は最新統計では賃金伸び率はわずか0.3%という事実を重くみている。

 しかし、こうした全体的なデータはさておき、デフレの中で賃上げを発表した日本の主要企業が100社以上に達したという事実を見失うべきでない。「日本株式会社」は通常、最も有力とされる企業が将来への道筋を示すことで変化が始まる。労働市場はひっ迫しており、賃上げが間もなくもっと広がることを示唆している。パートタイム賃金は3%のペースで上昇、求人1件当たりの求職者数は減少しつつあり、今春の新卒者の雇用拡大計画を発表した企業も多い。

他にも労働市場で重要な変化が生じつつある。日本最大級の小売リチェーン「ユニクロ」は最近、臨時スタッフ1万6000人を正社員に転換する方針を発表した。パートタイム労働者とフルタイムだが「非正規」の労働者は過去20年間で日本の労働力の35%強に拡大した。彼らの賃金が安く、解雇しやすいのが主因だ。しかしバランスオブパワー(力関係)はシフトしつつあり、長年苦しんできた日本の労働力の3分の1に相当する労働者が賃金上昇と雇用安定を要求できるようになってきた。

 一部の消費財では、価格設定力も復活しつつあるようにみえる。例えば化粧品会社は最近、比較的若い消費者が低価格帯から中価格帯の製品にシフトしていると指摘している。日本経済新聞によると、日本最大の化粧品会社である花王の沢田道隆社長は最近、化粧品の価格は長い間継続的に下落してきたが、2013年には底入れし、今年は若干インフレ気味だと語った。

 食料品とエネルギーを除いた消費者物価の上昇率は過去15年以上で最も持続的な上昇トレンドにある。重要なのは、これがコストプッシュ・インフレでないことだ。電力料金は福島原発事故以降、上昇したままだが、それ以外の多くの企業の買い入れコストは、商品(一次産品)を中心に下落している。一方、多くの最終価格は横ばいないし上昇しつつある。

 わたしは最近、日本の段ボールの主要メーカーの経営幹部と話をした。段ボール業界は歴史的にコスト転嫁以上に製品価格を押し上げるのに消極的だった。長年にわたって低いマージンのまま我慢してきたこの業界が今や、価格引き上げを検討すべきだとの考え方に傾いているようだ。結局のところ、そうすることが愛国的な行動だとアベノミクスは教えている、とこの経営幹部は指摘した。

 多くのウォッチャーは、企業の設備投資を企業の先行きへの自信の真の指標だとして注視しており、それはまだ上向いていない。しかし生産活動の先行指標である工作機械受注は急増しており、とりわけ国内受注も増勢傾向にある。幾つかの大手工作機械メーカーは、国内の中小企業からの需要が強いと述べている。設備投資計画は、これら中小企業への銀行融資の急増を説明する1つの要因なのかもしれない。

 企業信頼感の高まりは、他の面でも顕著になっている。規制当局が国内企業の強化が業界寡占化の懸念よりも重要だというメッセージを明確にし、企業合併が再び議論されていることだ。これまで日本では価格競争を損なうような合併が厳しく規制されてきたため、コスト削減のための経営統合以外は難しかった。だが今や、企業はコストと収入のシナジーという両面から合併を見ており、買収機運が高まっている。

 日本はまだ森の中から抜け出ていない。3月の日銀の企業短期経済観測調査(短観)によれば、企業は向こう3カ月間の先行きに警戒感を抱いている。これは4月1日に実施された消費税の3%引き上げの影響への懸念を反映しているとみられる。これとは対照的に、企業は現在の景況感は良いとしており、向こう数年間、日本では1.7%のインフレになると考え、自社の販売価格はそれ以上に上昇するとみている。消費増税が若干の影響をもたらすのは疑いないだろう。しかし新幹線切符の販売、クレジットカード支出、そして一部の小売販売の速報によると、4月は依然としてプラスになっている。

 こうしたグリーンシューツ(景気の芽生え)はおおむね、経済政策に対する信頼感の向上の賜物だ。インフレを維持し続ける政策が継続されるとのこれほどの確信は、この数十年の日本になかった。過去数十年間、政府は片足でブレーキを踏み、もう一方の片足でアクセルを踏んできた。つまり政治家も官僚も、政策よりも政治的駆け引きに集中してきた。日銀の発信するコミュニケーションは、もっぱら政策を損なうことを狙ったもののように響いた時期もある。

 日本の経済復活では依然として多くの課題が残っている。より広範な改革は決定的に重要だ。しかし信頼感とインフレ期待は日本におけるより大きな経済変化のために不可欠な触媒だ。リフレーション(景気浮揚)は安倍氏が日本経済に提供できる最も大切なことであると同時に、彼が最もうまく実現できることなのだ。

 (注=筆者イーサン・デバイン氏は米インダス・キャピタル社のパートナー兼ファンドマネジャー) 




ナスダック急落と黒田ショックの裏側で何が起きているのか

「高頻度取引によって米国株式市場は操作されている」と主張する作家マイケル・ルイスの最新刊『フラッシュ・ボーイズ』が話題となっている。マイケル・ルイスは「嘘つきポーカー」で有名になった元ソロモンブラザーズのトレーダーである。

『フラッシュ・ボーイズ』は、高頻度取引業界の内幕を暴露した本である。マイケル・ルイスは「スピードの速くない大口投資家を出し抜いて取引しこれらの投資家が買う株価をつり上げている」と主張している。この本の出版によって、以前から囁かれていた「超高速取引(HFT)の儲けのカラクリはフロント・ランニング(後出しじゃんけん)ではないか?」という疑惑が一層深まった。

『HFTを手掛けるある投資会社は、4月初めに見込んでいた上場を延期する検討に入った。「5年間で負けたのはたった1日」――。発端は同社が上場に向け3月に開示した資料だった。2009年から13年末まで、取引を行った1238日で損失が出たのがたった1日という勝ちっぷりに驚きが広がった』『通常の取引では考えられない勝率の高さが「何かカラクリがある」との疑念をよび、ニューヨーク州のシュナイダーマン司法長官が3月中旬に「市場に対する信頼を台無しにしている」と批判。ホルダー司法長官も4月4日、米下院の証言で「司法省も調査している」と明言した』(日本経済新聞 4月6日付 米、超高速株取引を調査 システム駆使、1秒数千回 勝ちすぎ「不公平」 高まる批判、当局動く)と、超高速取引に対する逆風が強くなり、HFT業者が積極的に売買しているモメンタム投資銘柄が売られたのが、4月4日のナスダック急落の一因と言われている。「司法省も調査している」という報道から、超高速株取引業者の好む銘柄に売りが入ったという。

ナスダックの急落は、「司法省の調査報道によるモメンタム投資銘柄の流動性パニックを恐れた投資家が逃げた」という一過性の動きと捉えられているが、ファンドは5月決算を控えており、今しばらく注意が必要だろう。


「5年間で負けたのはたった1日」という言葉が独り歩きし、「超高速取引(HFT)をやっていればボロ儲け」という誤った認識が日本では蔓延している。確かに海外勢に翻弄されている日本株の昨今の乱高下は、超高速取引(HFT)が一つの要因ではあるが、高頻度取引業界全体の利益は縮小傾向にある。

2011年から2012年頃には、筆者のところにも「超高速取引(HFT)のサーバーを借りませんか?」というセールスが山のようにきたが、その頃が高頻度取引業界のピークで、2013年の高頻度取引業界全体の利益はピークから8割程度減少してしまっているという。コピーキャットが増えすぎて過当競争になっているらしい。日本株の売買にしても東証の呼び値の縮小などで、以前のように儲からなくなっているという。

筆者の周辺に超高速取引(HFT)を行う運用者がいる一方で、「この様な取引は中止すべきだ」と主張する運用者は多い。日本株を見ていればわかるが、日経平均やTOPIXといったインデックスの動きによって、個別銘柄は上がるか下がるかが決まってしまうからだ。そういった動きは銘柄選択や企業調査を空しくさせる。バリュー投資家不在の相場が続いていると言えよう。

巷の観測に反して高頻度取引業界は収益が低迷しているが、それでも超高速取引(HFT)の売買自体は減ることがないだろう。株式会社となった世界の取引所は超高速取引(HFT)の顧客が最大顧客となっており、取引所の収益を高頻度取引業界が支えているからだ。事実上、取引所はレンタルサーバー屋となっているのが昨今の実情である。

個人投資家はバーチュやKCG(ナイトキャピタルとゲッコー)のような太い回線(ケーブル)を持っていないし、回線もプロバイダー経由のディレイがある。超高速取引(HFT)と同じ土俵で戦っても勝てないことは明白だ。相場手法に正解はないが、いずれにせよ、超高速取引(HFT)に振り回されない自分なりの投資手法を持つことが必要となろう。

アルゴリズム取引(日本でいう自動売買)も同様である。この4月にチューダーファンドがクオンツファンドを閉鎖する。このクオンツファンドはピーク時に11億ドルの資金を運用していたが、過去3年はマイナスのリターンとなり、現在は1.2億ドルまで減少した。

チューダーファンドでさえ苦戦しているのだから、あとは推して知るべしである。過去3年間、名だたるファンドのパフォーマンスが悪化しているのは、明らかに市場の構造が変わったからである。筆者もここ数年は「10月末買い・4月末売り」といった半年間投資やレンジ売買の比率を高めているが、それは市場構造の変化に対応しての動きである。昨今の相場は猫も杓子もアルゴリズム取引を行っているので、トレンドは発生しにくくボラティリティだけが上がっている。


日銀の思惑と関係なく追加緩和策は必至

4月4日の雇用統計の数字は決して悪いものではなかったが、ナスダックの急落にドル/円も足をすくわれてしまった。しかし、波乱というほどの相場ではなかった。相場に冷や水を浴びせたのは4月8日の黒田日銀総裁の会見である。

「追加緩和は現時点では考えていない」「必要だとは思っていない」「いろいろな追加の余地もあるだろうし、逆方向の調整の余地もあると思う」という一連の発言を目にした投機筋は、失望売りに動いたという。「逆方向の調整とは?日銀もテーパリング?それはあり得ないでしょう」と、アベノミクスに対する期待は急速にしぼんでいる。


黒田日銀総裁は4月8日に追加緩和を行わなかった理由を述べているに過ぎないので、筆者はあまり発言内容に意味はないと考えている。しかし、一部の海外投資家からは「財務省(日銀)は消費税のことしか頭にないのだろうか?来年消費税を10%に引き上げるには7-9月期のGDPの押し上げと年末の景況感がポイントだから、今追加緩和をしても仕方がないと思っているのかもしれない」という失望の声が上がっている。

日銀の思惑とは別に日銀は追加緩和に追い込まれるのではないだろうか?黒田日銀総裁は浜田理論に対抗する形で「需給ギャップは縮小しほとんどゼロに近くなっている」と発言し、来年の消費増引き上げや追加緩和が必要ないことを正当化している。しかし、追加緩和のポイントはそうした経済理論ではない。アベノミクスは景況観の改善と安倍政権の支持率アップのために行われている政治的な政策である。

日銀の追加緩和がないとなると、4-6月期は公共事業の前倒しくらいしか策がない。国際通貨基金(IMF)は4月8日に日本の2014年の実質経済成長率が、前年比で1.4%になるとの見通しを発表した。これは1月時点より、0.3%の下方修正であり、消費増税の悪影響が景気対策などの効果を上回るとしている。景気が良くなると考えているのは日銀だけのようだ。成長戦略にしても出てくるのは6月の後半である。それまで、日本株が上昇基調を維持できるのか、日本株を買っている投機筋の多くは不安に思っている。

「安倍首相が日本株安・円高(=支持率低下)を避けるために、日銀に株価テコ入れ(ETFやリートの買い入れ枠増額)を要請するだろう」という期待感が、ファンド勢にはまだ残っている。しかし、4月30 日の日銀金融政策決定会合で追加緩和が見送られれば、再び海外投資家の失望売りを浴びる可能性がある。ファンド勢の多くは5月決算を控えているからだ。

黒田総裁が自信満々の会見を行ったので、追加緩和期待が急速にしぼんでしまった。元々海外投資家は日本の改革が進むとは思っていないので、アベノミクス以降の日本株の上昇は日銀の金融緩和と米国株の上昇だけで上げてきたと言ってもよいだろう。

足元の相場は、日本株や円安を支えてきた<緩和期待>がとりあえず打ち消された格好となっており、日本の株高基調や円安基調が維持されるか否かは米国株の動向にかかっている。

「4月のダウ平均の月間上昇率の平均値は1945年9月以降だと1.86%、1990年以降でも2.37%と、ともに12カ月中首位である」というアノマリーを先週のレポートで紹介したが、4月相場は第2週目から月半ばにかけて相場が下落するパターンとなることが多い。ここまでの4月相場をみると、今年もそうなっている。過去のパターンでは月末にかけて切り返すことが多く、筆者も押し目買いを基本に考えているが、今年はどうなるだろうか。


 
日銀や財務省は、不景気の永続化を望んでいる

■ リフレ派同士が争い始めた ■

藤井聡内閣参与(京大教授)が、浜田氏や原田氏や岩田氏をVoice』2014年5月号で批判した事で経済通の人達が盛り上がっています。

浜田氏らや高橋洋一氏らの主張は、「財政政策はマンデル・フレミング効果によって金融緩和の効果に逆行する」というもので、デフレ脱却は「金融緩和のみが有効」と主張します。

これに対して藤井氏は「デフレ下で異次元緩和によって金利が低く抑制されている今の日本ではマンデル・フレミングモデルは適用され無い」と主張します。

素人の私などにはチンプンカンプンですが、要はリフレ派の中にも緊縮財政派と積極財政派が存在し、その両者が争っているのです。

■ マンデル・フレミングモデルとは ■

にわかに話題を集めているマンデル・フレミングモデルとはどんな理論なのでしょうか?

前提条件は国際的な資本移動が自由な事。
要は、現在の様に変動相場性でグローバル金融が発達した状況下で成立します。

1) 政府が景気を回復させようとして財政拡大を実行する
2) 将来的景気回復予測が期待インフレ率を押し上げる
3) インフレ予測による金利が上昇し始める
4) 国内金利の上昇が海外からの投資を呼び込む
5) (日本においては)為替市場で円が買われ、円高が発生する
6) 円高により輸出が減少し、国内景気が後退する
7) 財政拡大効果が、輸出の縮小によって相殺される

要は、財政拡大の効果は一時的であり、中期的には為替変動の影響で相殺されてしまうという理論です。これは、通常の景気変動の範囲内では間違いでは無いと思います。

■ デフレ下で金融緩和が実行されている場合はMFモデルは適用されない ■

藤井氏の主張は次の様なものだと思われます。

1) デフレ下においては財政拡大でインフレは容易に発生し得ない
2) 異次元緩和の様な極端な金融緩和の元では金利は充分に抑制されている
3) よって、財政を拡大しても金利上昇は限定的である
4) 金利上昇が緩やかであれば、円高も限定的である輸出の減少も限定的である
5) 財政拡大による景気刺激はMFモデルによる阻害を受けにくいので効果的である

藤井氏の説には私も同感です。現にアベノミクスによる異次元緩和と大型補正予算が効いていた昨年前半は、景気に薄日が差していました。

■ 問題は財政拡大の効果が直ぐに持続的で無い事 ■

実はMFモデルなどを持ち出すから話がややこしくなるのですが、結局は財政拡大に効果があるかどうかという問題で両者は争っています。

浜田氏は、「最低限のインフラ整備は必要であるが、それ以上の財政拡大に景気回復効果は無い」と主張します。その根拠にMFモデルを持ち出しています。

実は私は財政拡大には短期的な効果はあるが、中長期的にはその効果は中立だと思います。要は財政拡大の間だけは名目GDPが拡大しますが、それによって景気回復の弾みが付かなければ、長期的には財政赤字だけが拡大するというのが現在の経済学の主流です。

ですから、MFモデルがデフレ・金融緩和時に成立しなくても、中長期的には効果が無くなる財政拡大は財政赤字を拡大するだけとも言えます。

一方、藤井氏の発言は「アベノミクス」を背景にしていますから、短期的でも財政拡大に景気回復効果があるのであれば、それは政治的には正しい発言とも言えます。そもそもアベノミクスにおける財政拡大は継続的なものでは無く、日本経済がデフレを脱却する切っ掛けを作る事を目的としているので、財政支出の長期的効果は最初から期待はしていないでしょう。(ここら辺を大きく勘違いしている方達が沢山居ます)


■ MFモデルは内外金利差の影響を大きく受ける ■

グローバル金融のエンジンは金利差ですから、MFモデルの効率を支配するのも、その時々の内外の金利差です。(日本の場合は日米の金利差)

例えば、リーマンショック前は世界で金融緩和を実施していたのは日本だけでした。日米の金利差が大きかったので、日本の資金は円キャリートレードによって主にアメリカに流出し、金融緩和の効果を阻害していました。

この様に日米の金利差が大きい状況では、多少の公共事業の増発をしても、資金は金融システムを通して直ぐに国外に流出してしまうので、インフレ期待を充分に高める事は出来ません。

それでは現在の状況はどうでしょうか?
アメリカがテーパリングに踏み切った事で、アメリカの金利は一時的に上昇していました。一方日本は周回遅れで大規模な金融緩和を実施しているので、日米金利差は拡大傾向にあり、円キャリートレードも復活しています。この様な状況で財政を拡大して公共事業を増発しても、期待インフレ率を押し上げる事は難しい様に感じます。

異次元緩和を実行中は、金利は抑圧され、さらに円安傾向になるので日米の実行金利の差はさらに拡大します。これはMFモデルの効果を抑制します。

こういった意味から、藤井氏の発言は正しい様に思われます。

■ 金利を抑制しながら、インフレに出来るのか? ■

ここで気になるのが、「金利を抑制しながらインフレに出来るのか」という問題です。

従来型の財政拡大とインフレと金利変動

1) 公共事業によって需要が増大する
2) 需要の改善により景気が回復し始める
3) 需要が供給を上回る様になり、インフレが発生する
3) 需要の拡大により設備投資などの資金需要が増え、金利が上昇する

この様に通常の景気循環においては、財政拡大による需給バランスの改善がインフレと金利を上昇させます。これは健全なプロセスと言えます。但し、この場合の財政拡大は景気回復の時期を早める効果はありますが、通常の景気循環においては財政拡大をしなくとも、時間が建てば需給バランスは自然に調整されて景気が回復する事に注意が必要です。

金融抑圧下でのインフレと金利変動

バブル崩壊以降の日本では、バランスシートの改善が進むまでの10年間は経済の成長力は「借金返済」で消費されデフレが進行しました。その後の10年間は、製造業を巡るグローバルな価格競争や、少子高齢化による生産性の低下によって経済の成長力が不足しています。要は、放置していても日本はデフレを脱却できない状況です。そこで、金融緩和と財政拡大を同時に行ったのがアベノミクスです。

1) 極端な金融緩和で大量のマネーが市場に供給される
2) 供給されたマネーは円安を促す
3) 円安によって輸出企業の業績が改善する
4) 供給されたマネーは資産市場を過熱する
5) 円安による輸入価格の上昇が発生する

6) 資産価格の上昇により多少の景気回復が見られる
7) 輸入価格の上昇を主要因にして物価の上昇が始まる

8) グローバル化と産業構造の変換により平均所得の上昇は抑制的
9) 実質賃金が低下するので需要はむしろ先細りする

10) インフレ率は高まるが、資金需要は低位で安定している
12) 金融緩和を実行している間は金利は低位で安定している
13) 日銀の国債大量買入れにより、国債金利も低位安定して金利を抑圧する

14) 13年度の補正予算程度の公共事業の増発では景気の流れは変わらない

15) 結果的に輸入物価とエネルギーコストの上昇分だけインフレが進行する
16) 需給バランスに大きな変化は無いので資金需要も低く金利は上昇しない

結局、金融緩和が需要を増やすプロセスが確立出来ないので、景気は回復せず金利も上昇しませんが、物価だけが上昇します。

■ リフレ政策の真の目的 ■

岩田日銀副総裁ら緊縮財政派のリフレ派は「金融緩和だけで需要は回復する」と主張し続けています。その理由の一つとしてMFモデルを持ち出しています。

しかし、実はその目的は二つあるのでは無いかと私は見ています。

1) 日銀の財政ファイナンスを永続させ、日本の財政破綻を先延ばしする
2) ある程度の日米金利差を生み出し、アメリカのテーパリングを援護する

1)は財務省にとって重要な事です。
2)は国際金融資本家と世界の中央銀行にとって重要な事です。

この両者にとって大事な事は、日本の景気が回復して金利上昇が始まると困るという一点です。

日本のブクブクに膨れ上がった財政赤字は国債金利の上昇に対して脆弱です。長期金利が2%を超える様な事態になれば、多分パニックが発生します。ですから、財務相は消費税増税などを強行して、不景気を永続化しようとします。

これは、景気回復による税収の増加よりも、金利上昇のデメリットの方が現在の日本の財政には深刻な影響を与える事が予測されるからです。景気を犠牲にしても、財政を維持すいる事を優先しているのが、財務省が異次元緩和を黙認する理由でしょう。


一方、日銀は明らかにFRBやECBとリンクして動いていますから、FRBのテーパリングの間、日本が世界の市場に資金を提供する役割を担う事を最大の目的にしているハズです。これは円キャリートレードとして観測されますが、その為には日米の金利差は2%以上を維持しておきたい。

アメリカは現在10年債の金利が3%を切っていますが、アメリカも巨大な財政赤字を抱えているので金利上昇には神経質になっています。多分、3%程度が許容範囲の限界なのでしょう。そうした中で日米金利差を2%程度確保する為には、日本の景気回復は阻止する必要があります。


・・・そう言った諸々の「大人の事情」がある為に、日本では消費税が増税され、財政拡大に消極的なリフレ論者達が盛んに発言を繰り返しているのでは無いでしょうか?


まさか、「日銀や財務省が不景気の永続化を望んでいる」などと国民は夢にも思いませんから、リフレ論者の内紛が単なる経済論争に見えてしまうのでしょう。

そもそもMFモデルを始めとした経済の法則など、その時々の経済状況に大きく影響を受けるので、科学の法則ほど絶対的なもので無い事は、議論をしている経済学者達が一番良く知っています。

ただ、彼らは自分達の目的達成の為に、経済学の「理論の様なもの」を利用しているに過ぎないのだと私は感じています。・・・・そもそもが「こんにゃく問答」なのです。そして、国民は見事に煙に巻かれてしまいます。