世界中で多くの役者が学ぶ俳優術として知られる
 「スタニスラフスキー・システム」

 その創案者であり、ソビエトの演出家でもあった
 コンスタンティン・スタニスラフスキーが、
 次の言葉を残しています。


  悪人を演ずるときは、その善いところを探せ。
  老人を演ずるときは、その若いところを探せ。
  若者を演ずるときは、その老いたところを探せ。


 俳優が劇中の人物を演じるときの心得を語った
 この逆説的で、洞察的な言葉。

 この言葉を読むとき、
 それが、俳優術を語った言葉ではないことに
 気がつきます。

 なぜなら、
 もし、人生というものが「一つの物語」であり、
 我々が、その物語の「主人公」であるならば、
 その素晴らしき物語を演じるために、
 この言葉は、深い意味を持つからです。


 もし、理想を求めて歩みたいのであれば、
 自分の中の現実主義者の部分を見つめる。

 もし、他者を愛して生きたいのであれば、
 自分の心の奥深くに潜む嫌悪を見つめる。

 そのとき、我々は、
 自分の中の「もう一人の自分」に気がつき、
 その自分との対話を始めることができるのでしょう。


 スタニスラフスキーの言葉は、
 そのことを教えているのかもしれません。



 田坂広志